伊坂幸太郎 27


死神の浮力


2013/08/05

 『死神の精度』以来8年ぶりに、死神の「千葉」が帰ってきた。奇妙な死神の物語が、今度は長編で読める。期待に胸躍らせて手に取った。

 ところが、今回の「千葉」の調査対象は、我が子を殺された作家、山野辺遼。犯人として逮捕された本城崇は、一審で無罪判決を受け、釈放される。人生をかけて娘の仇討ちを決意した山野辺夫妻の前に現れたのが、「千葉」だった。

 一審判決後、山野辺夫妻が自宅をマスコミに張られているシーンから始まる本作。うぐう、どう考えても軽妙になんかなりっこない重い設定である。「千葉」との再会は嬉しいけれど、こんな形とは思っていなかったぞ。しかも、千葉の調査対象ということは…。

 簡単に述べると復讐譚だが、そこは伊坂作品、物語は「千葉」のペースで進む。最初の大チャンスを「千葉」が台無しにしてしまい、さすがに突っ込みたくなった。夫妻が復讐を果たすかどうかに、「彼」は関心がない。前作同様、どこまでもマイペースなんだよなあ。

 最初のチャンスを逃したことにより、山野辺夫妻は本城にいたぶられることになる。相手はサイコパス、25人に1人の良心を持たない人間。夫妻の行動が飛んで火に入る夏の虫のごとく迂闊なのが気になるが、冷静に考えろというのも無理な注文だろう。

 詳しくは書けないが、度重なるピンチも、「千葉」の活躍で切り抜ける。「彼」に最初のチャンスを台無しにした罪滅ぼしの気持ちなどないだろうが。読者にはわかっている。「千葉」の調査期間中に、山野辺遼が亡くなることはない。

 やがて、山野辺夫妻は本城の真意に気づく。どこまでも腐った人間、本城。しかし、それがサイコパスというもの。「千葉」が大活躍するクライマックスはすごいぞ。というか、最初からそれをやれよっ!!! さすがのサイコパス本城も、驚愕せざるを得ない。

 終盤手前で、ふざけんな死神っ!!! と思った読者は多いだろう。それがあんなオチになるとは…。しんどいはしんどかったけど、いくらでも重くできる設定に奇妙な死神を介在させて、エンターテイメントとして成立させている。伊坂幸太郎ならではの傑作だ。



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