石持浅海 13 | ||
賢者の贈り物 |
ここまで来るともう本格とは呼べないだろう。
『扉は閉ざされたまま』以降、本格の旗手と目される石持浅海さんだが、そもそもその作風はクイーン的形式美に則った狭義の本格からは逸脱している。近年の作品ほどそうした傾向は顕著で、推理ではなく洞察や想像でしかないものも目につく。
必ずしも洞察や想像だからだめというわけではない。しかし、本作に至り、個人的に本格として許容できる範囲を超えてしまった。『容疑者X』論争における自称「本格理解者」の主張にはうんざりさせられた僕だが、本作こそ本格ではないと断言できる。
軽妙、洒脱に古典・名作に新たな息吹を吹き込んだ…というより無理にこじつけた全10編。趣向としては悪くないが、「推理」の材料はあまりにも少なく、作中の人物も好き勝手に想像するしかない。もはや妄想の域に入っている作品もある。
お約束の色恋話が多いが、これっぽっちのヒントからここまで空気を読めってか? 実際の恋愛でこんな回りくどいメッセージが伝わるかよ。そりゃダイレクトに「好きです」とか言ったら、本格にならないけどさ。いや、本格じゃないんだった。ああもう…。
ベンチャー企業の人事の話が入っているのは、版元であるPHP研究所の意向なのか。御社のビジネス書にでもケーススタディとして掲載すべきだろう。本格どころか小説にする必要性がわからない。最後の株の話は、経済に疎い理系人間の僕が読んでも問題大ありだ。完全にインサイダー取引だろうが。PHP研究所的には問題ないのか?
何より、結末の教訓臭さが鼻についてしょうがない。表題作を始め、ネタにした古典・名作に教訓臭いものが多いせいでもあるんだけどさ。好意的に解釈すれば、大人のための寓話集…とも言えないな。最初から「金の斧 銀の斧」なんて馬鹿にしすぎだ。
磯風さんという女性が全10編に登場する意味は、特になさそうだ。