石持浅海 16


まっすぐ進め


2009/06/08

 突っ込むために読んでいるような気がしないでもない石持作品だが、本作は本格かどうか以前に謎はおまけのような感がある。一応「日常の謎」系…いや、恋愛小説か?

 書店で真剣に本を選ぶ美しい女性に見とれた川端直幸。友人の紹介でその女性・高野秋と偶然知り合い、やがて交際に発展する。直幸は、彼女が抱える謎が気がかりだったものの、詮索はせずにいた。そして、謎が明らかになる日がついに来た。

 直幸と秋を中心に展開し、直幸の視点で描かれる「本編」3編に、直幸の友人・黒岩正一の彼女である太田千草の視点で描かれる短い「間章」2編を挟んだ全5編。探偵役に当たる直幸は、『Rのつく月には気をつけよう』に登場した長江のように、とにかく鋭い。何かと「空気読め」と言われるご時世だが、読まれすぎるのも気味が悪い…。

 秋は、誰かに読まれることを望んでいた。直幸は打ってつけの相手だったわけである。最初の「ふたつの時計」は、2人のなれそめを描いている。直幸でなければこんなもん読めないだろう。心情的に理解できるかどうかはともかく、よく1編に仕立て上げたものだ。

 本編2編目「いるべき場所」。本作中で、いや、すべての石持作品の中で最も突っ込みたいシーンがある。いくら親切でやったこととはいえ……見咎められたらどうするのさ。2人には直接関係がない事件だが、直幸は嫌な想像力がよく働くよなあ。

 最後の表題作「まっすぐ進め」。秋が語った真相は、僕の漠然とした想像からそう遠くはなかった。問題は解釈である。秋自身の解釈と直幸の解釈。いずれにしても酷であることに変わりはない。直幸が空気を読んでいるのかいないのか、わからなくなっきた…。

 書き下ろしの間章2編、「ワイン合戦」と「晴れた日の傘」は、一服の清涼剤…いや、「ワイン合戦」は違うか。正直ページ数を稼ぐため以上の意味が見出せない。

 クローズド・サークルからは完全に離れてしまったのか。現代本格の旗手と目されている石持浅海に、このまま「まっすぐ進め」と言うべきか否か、大変悩ましい作品である。



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