石持浅海 09


Rのつく月には気をつけよう


2007/12/23

 石持浅海さんの今年2冊目の連作短編集である。『人柱はミイラと出会う』は、石持浅海さんがデビュー以来こだわってきたクローズド・サークルからの脱却という点で注目された作品集であった。今回もまた、クローズドサークルではない。

 本作は『心臓と左手』とほぼ同時期に刊行されたが、対照的な内容の作品集になっている。唯一共通しているのは、探偵役の人物造形。

 大学時代からの飲み仲間である湯浅夏美、長江高明、熊井渚の3人は、毎回誰かが食材を持ち込み、長江の部屋に集まって飲むのが恒例になっていた。そして、毎回誰かがゲストを連れてきて恋愛話を披露するのも恒例なのだった。

 全7編は食べ物をネタにした恋愛話という趣向である。ちょっとした悩み相談にいつも答えを示すのは長江高明。伝聞のみから解釈を示す、「安楽椅子探偵もの」である。長江の洞察力は鋭い。鋭すぎて恐怖すら感じる。何もかも見透かされそうで、ちょっと友人にはしたくないタイプかもしれない。ましてや恋人には…。

 一言で述べると本作は「日常の謎」系に属する作品集である。それはともかく、あまりにも各編の読後感が軽い。毎回ある食べ物から話を展開するという縛りの中、本格としてはよく練られているとは思うが、小説としてはちょっといい話に留まっている。石持浅海ともあろう者がこれを書かなければならない必然性はどこにある?

 というのが、最後の「煙は美人の方へ」を読む前の感想なのだが、罠が仕掛けられていた。3人が恒例の飲み会に使ってきた長江の部屋を、長江が引き払うことになった。その理由は…これ以上は書かないでおく。ああまたこの手かよ。ぶつぶつ。

 ラストを除く各編は、それ自体が完結していると同時に、最後の仕掛けのために収録されていたのだった。全体の軽さを許してあげようと思った僕は甘いだろうか。感づく人は感づくかも。気楽に読めるミステリーを求めているならお薦めしたい。



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