石持浅海 20 | ||
この国。 |
前作『攪乱者』にも通じるテーマと言えるだろう。今回の舞台は、一党独裁の管理国家である。一見「日本国」のようなこの国は、まったく違った歴史を歩んできた。
19世紀半ばまで200年あまり鎖国していたこの国は、欧米列強の圧力に開国を余儀なくされ、封建体制は崩壊した。新政府は各国を視察し、世界の進歩に恐怖した。連中と戦争をして、勝てるわけがない。そして一党独裁政権となった新政府は、第1次、第2次大戦とも中立、不参戦を貫き、敵を作らないことに腐心し、現在に至る。
戦争を捨て、徹底的に国民を管理したことにより、この国は経済大国にのし上がった。そんな国ならではの5つの事件に、治安警察の番匠が挑む。
国家反逆罪に問われ、間もなく公開処刑される反政府組織のリーダー。奪還を目論み、あの手この手を繰り出す敵の、最後の切り札とは…。うーむ、この国はそんなのでチャラにしてくれるのか? このエピソードは伏線にもなっている。
小学校卒業時に行われる人材選別の悲喜こもごも。子供らしい青臭さの裏にある、大人顔負けの冷徹さ。それをむしろエリートの資質と言い切るこの国。
戦争を捨て、仮想敵国も存在しないこの国における、軍隊のあり方とは。管理国家の割には緩い規律と訓練。だからこそ問われる、自覚と自律。
表向きには売春を禁じているこの国の、実態とは。これを現実解と割り切るべきか否か。というか、犠牲者はとばっちりだよね。買春客とはいえちと気の毒…。
最終決戦の舞台が「カワイイ博」とは恐れ入った。あの手この手が繰り出されるが…「萌えキャラ」だらけな会場を想像すると、さっぱり緊張感がない。
全体的に、石持浅海作品らしい色物っぽさひねりと、テーマの硬派さが見事に融合した作品集と言えるだろう。石持マニアとしては満足度が大変高い。架空の「この国」と現実の「日本国」。日本国民にはどちらが幸せに映るだろうか。