石持浅海 21


八月の魔法使い


2010/07/22

 ある意味原点回帰だろうか。絶好調石持浅海さんの新刊は、久々の堂々巡りのロジックが展開される。『セリヌンティウスの舟』ほど苦痛ではないだろう。

 事件は会議室で起こっていた! という、現在公開中の某シリーズ作品に便乗したような帯の一文。社長以下役員勢揃いの会議室でのプレゼン中、資料に紛れ込んで映し出されたのは…存在してはならない“工場事故報告書”だった。

 洗剤など家庭用品の中堅メーカー、オニセン。主人公の小林拓真は、『役員たちの保育園』と揶揄される経営管理部に所属する、入社7年目の社員。あまり熱意があるタイプではない。ところが、いつものように総務部に印鑑をもらいに行くと、様子がおかしい。

 一方、拓真の恋人の金井深雪は、会議室にいた。お盆期間恒例の、特に揉めることもない緩い会議のはずが、急に物々しい雰囲気に。プレゼンのオペレーターとしてそこにいるだけなのに、とんだとばっちりだ。拓真にSOSを送る深雪。

 というわけで、誰も把握していない“工場事故報告書”の出処を巡り、会議室と総務部、2つの舞台であーでもないこーでもないと堂々巡りが始まるのであった。中身を見せろ、いや見る必要はない…云々。もちろん明確な意図があったわけだが。

 あのね、仮にも上場企業の役員でしょうが。仕掛人も、ここまで底が浅いとは考えていなかったのではないか。そして、総務部では、定年間際のある人物と拓真が対峙していた。あのね、M氏は何の権限があって、拓真に謎かけをしているのだろう。とっても言い方が鼻につくんですけど。馬鹿正直に付き合い、対等に渡り合う拓真も拓真だが。

 経営者に限らず、不祥事の公表などできれば避けたい。しかし、トラブルに見舞われたときほど、器が試されるのかもしれない。という結論でいいんですかね石持先生。会社とは何かと理不尽なものだ。ありがちな若者向け自己啓発書よりも、組織に生きる上での参考にはなるかもね。僕はあらゆる点でM氏を反面教師にして生きようっと。



石持浅海著作リストに戻る