石持浅海 28


煽動者


2012/09/26

 またもやクローズド・サークルですよ。石持浅海さんは完全に原点回帰したのだろうか。そして、クローズド・サークルであること以外にも大きな注目点がある。本作は、『攪乱者』の続編に当たるのだ。もし『攪乱者』を未読ならば、事前に読んでおきたい。

 傑作『攪乱者』で初登場した、無血テロを標榜する謎の組織。本作冒頭から、組織のメンバーになる条件を引用しておこう。生活の基盤がきちんとしていること。犯罪歴がないこと。世の中を呪っていないこと。知恵と工夫でなんとかしようとすること。およそテロ組織には似つかわしくないこれらの条件に、本シリーズのユニークさがある。

 本作に描かれるのは、前作とは別の『細胞』である。メンバーは互いに素性を明かさず、コードネームで呼び合うのは前作と同じ。前作に登場した『細胞』が実行部隊ならば、今回の『細胞』は支援部隊か。彼らの任務は兵器の開発にある。

 もちろん、兵器といっても銃火器や爆弾ではない。週末に軽井沢の施設に集まった『細胞』のメンバーは、リーダーが出した課題について議論を重ね、計画を具体化していく。翌日曜日の13時、リーダーに結果を報告するはずだった。ところが…。

 部外者は出入りできない施設内で、メンバーの1人が他殺体で発見された。一応捜索してみても、メンバー以外誰もいない。必然的に内部犯が疑われる。いわば無血テロ組織における内ゲバという設定は、なかなかにひねっている。

 もちろん警察に通報などしない。死体は処理専門の部隊が運び出した。彼らはテロリストなのだ。組織からの指示は、任務の続行。とはいえ、「死」に慣れていないだけに動揺を隠せない。報告を終えた彼らは、来週末再びここに集まって作業するのである。

 ところが、翌週さらに…。背景には、この組織の理念があるとだけ書いておこう。僕なりに本作の最大の読みどころを挙げると、ずばり前作との齟齬である。話としては独立しているが、おいおい○○さん、じゃあ前作のあれは何だったんだよ!!!!! 世界でも類を見ないソフト路線なテロ組織が、さらなるソフト路線になったわけ?



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