伊藤計劃 06 | ||
The Indifference Engine |
本作は、伊藤計劃さんがわずか34歳で夭逝した後に刊行された2冊の遺稿集『伊藤計劃記録』『伊藤計劃記録:第弐位相』から、フィクションを集成したというオリジナル短編集である。小説作品のみならず、私家版として発表したコミック作品や、円城塔氏と共同で手がけた海外SF作品の解説なども収録している。
冒頭のコミック「女王陛下の所有物 On Her Majesty's Secret Propery」は、007シリーズへのオマージュだという。007シリーズのファンというのは意外に思えるが、伊藤計劃の手にかかるとこのように変容するのか…。表題作「The Indifference Engine」は、『虐殺器官』のスピンオフとでも言うべき1編。短編だが、衝撃度は十分。ルワンダにおけるツチ族、フツ族の部族対立に基づいているのは明白。タイトルの意味はそういうことか。
「Heavenscape」は元々は伊藤計劃さんのWebサイトに掲載されたが、改稿の上『虐殺器官』に組み込まれたという、やはりスピンオフ的な1編。「The Indifference Engine」とは違う衝撃がある。「フォックスの葬送」は、ゲーム《メタルギア ソリッド》シリーズが元ネタらしい。ゲームをしたことがないが、ノベライズ作品『メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット』を読めば理解が深まるのかな。
深い作品が続いた後に、ジョークのような掌編「セカイ、蛮族、ぼく。」をどうぞ。再びコミックの「A.T.D:Automatic Death ■ EPISODE:0 NO DISTANCE, BUT INTERFACE」は、解説によれば予告編らしい。本編が書けなかったことが残念でならない。「From the Nothing, With Love」はこれまた007シリーズへのオマージュと受け取れるが、よりオリジナル色が濃い。伊藤計劃が描く、究極のスパイ像とは。
「解説」は、ハヤカワSF文庫から刊行された『ディファレンス・エンジン』の解説である。Difference Engine? 最後の「屍者の帝国」は、伊藤計劃さん最後の作品。長編の予定だったが、冒頭部が書かれたのみであった。円城塔氏が引き継いで書くことが発表されているが、うーん、それは伊藤計劃作品として読むべきかどうか…。
正直、各編ともすっと頭に入ってきたとは言い難い。出来が悪いわけではない。哲学的な作風だけに、伊藤計劃という作家の作品世界が、短編には収め切れていないように感じるのだ。僕の理解が追いついていないだけかもしれないが。