海堂 尊 02


ナイチンゲールの沈黙


2008/09/16

 『チーム・バチスタの栄光』でデビュー以来、現役医師ながら驚異的なペースで作品を発表し続ける海堂尊さん。田口・白鳥シリーズの第2作となる本作は、色々な意味でデビュー作とは異なる印象を残す。文庫版解説によれば、一部批判の声も上がったという。

 東城大学医学部付属病院恒例の忘年会。小児科の看護師浜田小夜は、その歌唱力で「桜宮大賞」に輝いた。同日夜、病棟最上階の特室、通称「ドア・トゥ・ヘブン」に伝説の歌姫水落冴子が緊急入院してきた。彼女は酔いどれ迦陵頻伽(かりょうびんが)の異名を持つほどのアルコール中毒だった。二人の歌姫には、共通の能力があるらしい。

 その共通の能力こそ、批判された理由に違いない。僕自身、これには大いに戸惑った。前作が、医療現場の最前線を知る作者ならではのリアリティに溢れていただけに、第2作にして大冒険に打って出るとは。100%絵空事と切り捨てる読者もいるだろう。

 小夜の担当患者には、眼の癌である網膜芽腫の子供たちがいた。眼球摘出以外に治療法はない。苛酷な運命にある彼らのメンタルケアに、不定愁訴外来の田口が当たることになった。聞き慣れない病名を扱った裏には、小児医療が抱える問題がある。

 前作同様、白鳥は唐突に登場するが、それより先にもう一人の変人加納警視正が登場する。加納はバラバラ殺人事件の捜査で病院に乗り込んでいた。別件で訪れたはずの白鳥は、巻き込まれるはめに。もちろん田口も。白鳥だけでもたくさんなのに…。

 デビュー第2作で気合が入ったのか、あれこれ盛り込みすぎて、メインのテーマがぼやけてしまった印象を受ける。キーパーソンも多すぎる。冴子の存在は必須だったのか。加えて、死体をバラバラにした理由の弱さが気になった。何て回りくどい自供なんだ。

 今回もAi(エーアイ)が解決の鍵を握るとだけ書いておく。ここまで使いこなせる日も遠くはあるまい。加納が提唱するDMA(デジタル・ムービー・アナリシス)も、実現性は高いように思う。それだけに、あの能力を受け入れられるかどうかで評価は大きく割れるだろう。良くも悪くも、前作よりエンターテイメントに舵を切った作品と言える。



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