海堂 尊 04 | ||
ジェネラル・ルージュの凱旋 |
文庫版解説にもある通り、田口・白鳥シリーズ第3弾はシリーズ中最もミステリーの要素が薄い。しかし、文句なしにシリーズ中最も面白いと断言できる。
有体に言えば人間ドラマの比重が高いのだが、とにかくある人物の魅力に尽きる。ジェネラル・ルージュの異名を持つ、東城大学医学部救急救命センター部長、速水晃一。病院経営の立場からは超赤字部門として疎まれる、救急医療にすべてを捧げた男。
不定愁訴外来の万年講師にしてリスクマネジメント委員会委員長の田口公平の元に、匿名の内部告発文書が届く。速水が特定業者と癒着しているという。高階病院長の依頼で調査に乗り出すが、倫理問題審査会(エシックス・コミティ)が絡んで事態は複雑に…。
沼田を中心としたエシックス・コミティの嫌味な面々に、ねっとりと攻撃される田口。大変に気の毒だが、今回の彼は完全な脇役。白鳥にしても、オブザーバーとして委員会を掻き回す程度で、決して前面には出ない。本作の主人公は速水なのだから。
速水の行為は厳密には許されないが、救急医療を維持するための必要悪という側面がある。それ故に、同期でもある田口は落としどころを模索する。正論を盾にじわじわと攻める沼田。しかし、当事者の速水は揺るぎない信念でどこ吹く風と受け流す。
会議のシーンがこれほどまでに読者に訴える小説はなかなかない。意外な人物が意外な行動に出るなど読みどころ満載。速水や部下の医師・看護師の高潔さと比較して、沼田らの卑屈さが際立つ。ピエロ役の沼田の人物造形は極端で、少々同情する。クライマックスに入ると、読者はジェネラル・ルージュの何たるかを目の当たりにするだろう。
今回はエシックス・コミティの惨敗に終わったものの、外部委員の弁護士が釘を刺している点には触れておきたい。医療現場には倫理というブレーキも必要なのだから。
本作は『ナイチンゲールの沈黙』と同時進行していたという設定のため、シリーズ前作と表裏一体の関係にある。元々一つの作品だったのを分割したためとはいえ、その点だけが惜しまれる。これだけ面白いのになあ。最初から読んでねってことなんだろうけど。