海堂 尊 17 | ||
ブレイズメス1990 |
前作『ブラックペアン1988』から2年後を描く続編である。病院長に就任した佐伯教授から、世良に指令が下る。世良の任務は、モナコのモンテカルロ・ハートセンターに勤務する天才外科医・天城に、佐伯から託された封筒を渡すこと。
ところが、フランスのニースで行われた国際学会の発表を、天城はドタキャンした。世良がようやく天城に接触できた場所は、モンテカルロのカジノ。前作の渡海といい、世良は型破りな医師に惹かれるのだろうか。天城のスケールの大きさは渡海の比ではない。患者が手術を受けられるかどうかは、カジノの大勝負で決まる。
そんな天城に、佐伯は心臓手術専門病院を設立させるという。当然ながら、黒崎助教授ら佐伯総合外科の面々は、拒絶反応を示す。前作では改革派的存在だった高階も、天城には正論をぶつけるばかり。佐伯にもおとなしくなったと指摘されているし。
世良がモンテカルロで目の当たりにした天城の技量が、日本で初披露される場とは…何と東京国際会議場。1日限りの手術室を設け、日本胸部外科学会で公開手術を行うという。スポンサーを得て資金面をクリアした天城は、猛反発をねじ伏せてしまう。
天城の主張に全面同意はできないが、全面否定もできない。1990年から20年後の現在、現実に医療の崩壊が始まっている。多くの病院が赤字経営であり、医療費を踏み倒す患者も多いという事実。「医は仁術」という標語が空虚に聞こえる。
と、耳を傾けるべき点もあるものの、医学的にも深みがあった前作と比較すれば、かなり物足りない。公開手術を終えた後、「こんなものは医療じゃない。単なるサーカスだ」と漏らす高階。高階の言葉を借りて言うなら、本作は本格医学小説ではない。単なるエンターテイメントだ。クライマックスの手術シーンは短いし、あっさりしている。
どうやら本作はほんの序章に過ぎず、天城の本当の戦いはこれから始まるらしい。本作一作だけで評価するのは時期尚早か。でもねえ、一冊丸々予告編というのは一読者として感心しない。桜宮サーガも収拾がつかなくなってきたんじゃないか?