加納朋子 10 | ||
虹の家のアリス |
『螺旋階段のアリス』の続編である。あの件は有耶無耶になったのかと思ったら、どっこい、火種が消えたわけではなかったのである。
「虹の家のアリス」。安梨沙の伝手(?)で請け負った仕事は、育児サークルへの嫌がらせの調査だった。うーむ、どんな集まりにも損な役回りの人っているよねえ。終わってみればほのぼの。「牢の家のアリス」。またあそこからの依頼が。真相そのものより、安梨沙の話があながち冗談とも思えないのが、嫌な余韻を残す。
「猫の家のアリス」。初出は『「ABC」殺人事件』という講談社文庫のアンソロジーだった。連続殺人ならぬ殺猫事件の真相はなかなかにひねられているが、ネットネタは時代を感じるかもしれない。「幻の家のアリス」。安梨沙の幼少期に関わる話とだけ書いておこう。多くの大人には身に覚えがあるのでは。子供だからこそ苦悩するのだ。
「鏡の家のアリス」。仁木の息子が初登場するだけでなく、正式に依頼する。恋人がストーカーにつきまとわれているという。事情を知らなければ、僕も仁木と同じ先入観を持ったかもしれない。やり口の汚さに憤ると同時に、僕自身も戒めなければ。
「夢の家のアリス」。今度は仁木の娘にある事態が持ち上がるが、これが伏線になっている。相次ぐ花盗難事件の謎よりも、安梨沙が決意を固めるという点が注目される。そもそも、あの裏には…。これで前作からの幕引きが図られた?
…かといえば、顛末までは描かれない。そこは読者の想像にお任せするということだろうか。安梨沙は自身の問題と向き合い、うまく解決したと信じたい。読み終えてわかるだろう。本シリーズには、鬱屈を抱えながらそれを隠して育った安梨沙が、自分の足で第一歩を踏み出すまでの物語であるという側面があることが。
前作以上に、謎解きはほぼ仁木1人で行っている点にも注目したい。もちろん、裏づけ調査などでの安梨沙の貢献は大きいし、仁木も単なる助手以上の感情を抱いているが、仁木自身も本シリーズを通じて私立探偵として独り立ちしたように思う。