加納朋子 14


てるてる あした


2005/05/30

 『ささら さや』の姉妹編と聞いていたが、サヤにユウ坊、エリカにダイヤ、そして久代さん、夏さん、珠さんのお婆ちゃんトリオと、主要な人物がそのまま再登場しているではないか。独立した物語ではあるが、できれば『ささら さや』を読んでおきたい。

 浪費家の両親が多重債務に陥り、合格していた高校に行けなくなった主人公の照代は、母の遠い親戚を訪ねて佐々良へやって来た。その親戚というのは実は久代だった。気難しい久代の家に居候しながら、意に沿わない佐々良での生活が始まったのだが…。

 前作(と言っていいだろう)の序盤では、サヤのあんまりな身の上に勘弁してくれと思ったものだが、本作で照代が佐々良へやって来た経緯はどうだ、おい。あっけらかんと言ってくれるもんだな。いや、あっけらかんと言わなきゃやってられないだろうけどさ。

 そんな照代の人物像に、僕は強い共感を覚えた。この歳でこの境遇では無理もないとはいえ、素直になれない照代。無愛想でつっけんどん。善人を絵に描いたようなサヤが嫌い。子供が嫌い。何もかも嫌い。環境に転嫁し自分の立場を嘆く。まるで自分じゃないか。

 それでも本当は照代の心根は優しい。それが自分との決定的な違い。彼女の心は、凍っていただけなのだ。佐々良での生活が、人々との交流が、彼女の心を溶かしていく。前作がサヤの成長記なら、本作は照代の成長記であり、自分探しの物語。人はちょっとしたことに苛立つが、ちょっとしたことで心が温まるもの。

 照代に届く差出人不明のメール。現れた女の子の幽霊。夢の中で何かを照代に訴える。その「何か」は、久代に関係があるらしい。水を向けずにはいられない。各編がエピソードとして完結する中に、謎として引き継がれる部分を織り込み、読者の興味を駆り立てる。

 全編を通じて散りばめられた謎は、最後に解ける。バラバラのピースが一つになるというのはまさにこのこと。相変わらず際立つ名手ぶり。ピースがかちりとはまる感覚を味わうために、休日などに一気に読むことをお薦めしたい。じんわりと温かくなれる作品集だ。

 上司の言うことは大抵正しいのだが、正しいだけに反発を覚える。困ったもんだ。



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