加納朋子 16


ぐるぐる猿と歌う鳥


2009/05/19

 新刊『少年少女飛行倶楽部』の刊行を機に再読してみたが、色々な点で本作との対照性が興味深い。しかも、どちらも甲乙つけ難い傑作だ。

 講談社ミステリーランドの1作として刊行された本作は、必ずしも明るいトーンとは言えない。子ども社会は残酷だ。今から思えば、ひどい言葉を浴びせたり、浴びたりした。また、小学校中学年くらいになれば、大人のずるさや理不尽さを思い知る。

 父親の転勤で、北九州の工場近くの社宅に引っ越してきた高見森(たかみ・しん)。前の学校ではいじめっ子のレッテルを貼られ、孤独だった森。孤独は苦にならなかったが、大人は信用できなかった。唯一の理解者だったおばあちゃんは亡くなっていた。

 転校早々に体育館の屋根に登り、目を付けられる森。そんな森だが、同じ登校班の面々には慕われる。そして、重要な任務が託されるのだった。どんな任務かは当然明かせない。それは社宅に住む子どもたちだけの秘密。モチーフはあの有名作品か?

 しかし、いい奴ばかりではないのが子ども社会。土田のようなタイプはどこにでもいただろう。土田はある意味本作の象徴的なキャラクターと言える。そんな土田を懲らしめるシーンは痛快ではあるが、これもまた子ども社会の残酷さなのだ。

 ミステリー的趣向もしっかり用意されている。前の学校での、森の苦い経験の真相。明かされてみれば何てこった。そして、プロローグに描かれた、森の幼少期の恐怖体験の真相。ミスディレクションが心憎いと同時に、大人の理不尽さを突き付ける。

 本作には、加納朋子さんご自身の、不安に満ちた子ども時代が色濃く反映されているようだ。楽しい思い出だけならそれに越したことはないが、現実は辛いことも多い。しかし、決して捨てたものではない。いつもいらついている父さんの言葉が胸に染みる。

 いずれ彼らが大人になり、自らの力で解決できる日まで、社宅の秘密は受け継がれていくのだろうか。土田のような奴に、大人に負けるな。



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