加納朋子 19


無菌病棟より愛をこめて


2012/04/03

 昨年は加納朋子さんの新刊が出なかった。ようやく耳にした新刊情報。ところが、タイトルを見て驚く。待望の新刊は、急性白血病と診断された加納朋子さんの、闘病記だった。前作『七人の敵がいる』が刊行された頃、闘病は始まっていた。

 本作は、加納さんが入院中につけていた日記をまとめたものである。おそらく小説のような推敲はせず、あまり手を加えずに刊行したのだろう。変に脚色していない分、闘病の生々しさが伝わってくる。物書きの性とはいえ、よく書き残したものだ。

 いきなり骨髄移植をするわけではなく、まず抗癌剤による化学治療を試みる。本作の最初の2/3では、化学治療の様子が描かれている。この時点で、吐き気や脱毛などの副作用との闘いは凄まじい。それでも、化学治療で完治すればよかったのだが…。詳しくは書かないが、加納さんには骨髄移植以外に選択肢はなかった。

 骨髄移植に当たっては、ドナーと白血球の型が一致しなければならない。兄弟間で一致する確率は25%だが、他人との間では数百から数万分の一と、大幅に下がる。このくらいの知識は僕にもあった。加納さんの場合、幸い弟さんと型が一致した。ただし、たとえフルマッチのドナーを得ても、生着率100%ということはない。

 結果から言うと、骨髄移植が成功したので本作は刊行された。ただし、退院すれば終わりではない。臓器移植を受けた人は、生涯拒絶反応と闘わなければならない。骨髄移植も然り。段階的に免疫抑制剤の投与を減らし、体を慣らしていく。本作のあとがきが書かれた昨年秋の時点でも、加納さんの闘いは終わっていないと思われる。

 家族や友人、病院のスタッフへの感謝が綴られていない日はほとんどない。ありがとうと何回書かれていただろう。本作にあまり悲壮さを感じないのは、こうした加納さんの人柄が大きい。何より、苦しくても苦しくても前向きだ。まさに病は気から。

 加納さんの退院からほどなく、東日本大震災が発生した。加納さんが入院していた無菌病棟では、スタッフの総力で乗り切ったという。



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