北村 薫 12


ターン


2000/07/17

 "Turn! Turn! Turn!"という曲をご存知だろうか。"The Byrds"の1965年の全米ナンバー1ヒットである。映画『フォレスト・ガンプ』で使用されたので、耳にしたことがある方もいるだろう。本作を読み終えて、この曲のことをふと思い出した。旧約聖書から引用したというその歌詞は、本作のテーマそのものではないか。

 ある夏の午後、29歳の版画家森真希が運転する軽自動車が、ダンプと衝突する。気が付くと、真希は自宅の座椅子でまどろみから目覚めていた。いつも通りの世界。真希以外に誰も存在しないことを除けば…。どんな一日を過ごしても、定刻の午後3時15分になると、一日前の座椅子に戻ってしまう。

 物語は冒頭から、二人称で記述される。真希と話しているらしい幻の声の主は、一体誰なのか? 事故に遭って以降も同じ調子である。同じ日の繰り返し。どのような一日を送ったのか、真希の記憶には残るのに、定刻になるとすべて元通り。真希と同様に、読んでいる僕も正直に言ってだれてきた。

 しかし、150日目に変化が起きる。突然鳴った電話は、着実に時間を刻んでいる向こうの世界とのホットラインだったのだ。この日から、救世主ともいうべき人物との交流が始まる。しかし、よけいに苛立ちが募る。焦りが募る。こういう心理描写における北村さんの筆致は一級品である。僕が読み進むペースも、急ピッチになった。

 終盤に登場する柿崎君は、果たして敵だったのか、それとももう一人の救世主だったのか? 真希にとっては決して愉快な相手ではなかった。しかし、彼もまた無限ループの中で苦しんでいた。そして、それに気付いた真希は…。これ以上は書かないでおこう。『スキップ』が好きな方はもちろん、あまり好きじゃない方にも是非お薦めしたい。特に、毎日が退屈だと思っている方に。

 "Turn! Turn! Turn!"には、"To Everything There Is a Season"というサブタイトルが付けられている。毎日を単調にするのも、変化に富んだものにするのも、すべては自分次第ということか。



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