北村 薫 22 | ||
語り女たち |
感想も書かずにいた本作を読み返す気になったのは、やはり短編集の『紙魚家崩壊』を読んだからである。最初とは印象が変わった…かな?
本作は、タイトル通り女性たちを語り部とした17編の短編集である。全体的に幻想譚、要するにオチのない話が多い。最初に読んだとき、失礼ながら習作集のような印象を受けたのだが、再読するとなかなかどうして味わい深いのだから勝手なものである。
生まれながらにヴェルディサポーターか「緑の虫」。わかる人にしかわからないネタですみません。うおお、その「文字」は何と読むんだ気になって眠れないぞ。って、あるのかこんな字。遊びなら〜まだましよ〜救われるから〜♪ 本当にまだましよ「わたしではない」。これが北村流「新釈走れメロス」だ「違う話」。「新釈おとぎばなし」と比較するべし。
中近東に行かれる方、お土産はこれで決まりだ「歩く駱駝」。「四角い世界」とは最近ご無沙汰だが、すっかり魅力を感じなくなったのはなぜだろう。うひゃあああ恐怖の「闇缶詰」の中身は何? 憎いよこのこの、よっしゃそのネタいただきだ「笑顔」。電車の中で大音量で音楽を聴いている若者に読ませたい「海の上のボサノヴァ」。
ああ猫好きには堪えられない「体」。ある社会問題を連想してしまう、今から思えば予見的な「眠れる森」。父が娘に疎まれるのは世の常か、それでも「夏の日々」よ永遠なれ。頭が高い、控えおろう「ラスク様」。って、子供社会は残酷だよね。
うむ、この「手品」の道具を使うと恋はうまくいかないんだな。そういう問題じゃないって。本作中最も短いが最も意味深かもしれない「Ambarvalia あむばるわりあ」。だんだんエスカレートして終いには…。うむ、これが恋のテクニックなんだな「水虎」。違うって。開発に明け暮れる現在、こういうことは日常茶飯事なんだろうな「梅の木」。
難解ではないが、読者の感受性が試される作品集だ。