北村 薫 26

紙魚家崩壊

九つの謎

2006/04/03

 「紙魚(しみ)」とは、本などを食べる虫である。幸い、乱雑に本が積まれた我が家で見かけたことはない。その虫の名と同じ姓の書物収集家…というより収集狂がいるという。

 という表題作だが、く、くだらん…。しかし、本好きならば気持ちはわかるなあ。すぐに読むわけじゃないのについ買い込んだこと数知れず。続く「死と密室」は、同じ探偵役が登場するシリーズ作品になっているが、北村先生が『名探偵の掟』を彷彿とさせるメタ作品を書いていたとは露知らず。で、このシリーズってこれだけ?

 「サイコロ、コロコロ」と「おにぎり、ぎりぎり」の2編は、出版社勤務の千春さんが登場する、こちらも連作作品。得意の「日常の謎」系だが、短いながらも味わい深く、タイトル通りにリズミカルなのはさすが名匠の仕事といったところか。そういえば、実家には『岩手のキノコ』という本があったぞ。で、このシリーズってこれだけ?

 オープニングを飾る「溶けていく」は、珍しいサイコサスペンスタッチの一編。現実と空想の境界が「溶けていく」とだけ書いておくが、映像にした方が怖い作品かな。「円紫師匠と私」シリーズを彷彿とさせる「白い朝」。ああ、美しきかな青春。こういうの苦手ですみません…。子供の頃、一晩虫かごに入れておいて死なせてしまった「蝶」さんごめんなさい。

 一押しはこれしかないぜ、「俺の席」。サイコホラーかなあと思わせておいて…ぶははははは、どうよこのブラックな結末は。こういうのもっと書いてお願いプリーズ。

 ラストを飾る大作(?)、「新釈おとぎばなし」。『本当は恐ろしいグリム童話』などという本がブームになったのを思い出すが、古今東西の物語に通じた北村先生の作品は深さが違う。これが『カチカチ山』事件の真相だっ! ……。本当は恐ろしい北村薫。

 系統がバラバラな作品を集めているが、同系統の作品だけでまとめた作品集を是非読んでみたいなあ。北村薫さんの多芸ぶりを示す貴重な作品集だ。



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