北村 薫 31


野球の国のアリス


2008/08/25

 北京五輪を最後に実施競技から外れるソフトボールと野球。ソフトボールがエース上野由岐子の3連投で悲願の金メダルを獲得した一方、野球は投手陣が打ち込まれてメダルを逃す。そんな結果を予見するかのようなタイミングで刊行された本作。

 約1年ぶりのミステリーランドからの新刊は、野球を愛する少女が主人公だ。アリスはただ観るのが好きなのではなく、少年野球チーム「ジャガーズ」のエースピッチャーだった。過去型なのは、アリスが小学校を卒業したから。日本では、女子が野球を続ける道は事実上閉ざされている。そんなアリスが小説家に語った、不思議な話とは。

 アリスが宇佐木さんの後を追って鏡の中に入ると、その世界では全国中学野球大会最終戦が行われようとしていた。敗者にチャンスをという名目の裏トーナメントが行われおり、アリスの中学は負け進んでとうとう最終戦に進出したのだった。

 この最終戦というのが一大人気イベントで、敗れたチームは「最弱」のレッテルを貼られる上に全国の笑い者にされる。こんな野球は間違っている。義憤に駆られてアリスは助っ人として立ち上がるわけだが…まさかの落とし穴が待っていた。

 こんな落とし穴を用意するとは北村さんもお人が悪いこと。しかし、その点を除けば特にひねりはない。自分が読んだミステリーランドの中でも、ここまで素直なお話はない。めでたしめでたし。あっと言う間に読み終わり、かつて子どもだった大人の読書には物足りないのは否めない。ひねりを求めるのは大人の読者の悪いところではあるが。

 ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』をパクっているのは明白だが、原作(?)はチェスがテーマだったはずである。野球と結びつける発想の源泉は何だろう。そういえば、「1950年のバックトス」という女子プロ野球をテーマにした短編があったなあ。

 何はともあれ、上野由岐子のように骨のある女の子を主人公にした方が盛り上がるよね。サッカーもなでしこジャパンが準決勝進出。男子はだらしないぞ!



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