北山猛邦 07

踊るジョーカー

名探偵 音野順の事件簿

2008/12/07

 個人的に高く評価していた北山猛邦さんの前作『少年検閲官』は、『本格ミステリ・ベスト10』での順位はそれほどでもなく、別名義で評論活動をしている某作家の批判にむかっとした。それから約1年。今年の集計期間を過ぎた11月末、初の短編集が届けられた。

 推理作家の白瀬と引きこもりがちな音野というコンビが難事件に挑む。依頼人との交渉では白瀬が前面に出るが、謎解きになると気弱な音野が見事な冴えを披露する…のだが、キャラクターのインパクトという点では弱い。元々重視されていなかったとはいえ。

 本作の魅力は、何よりも純粋な本格ミステリの楽しみにある。探偵小説研究会を始めとした本格通を唸らせる、重厚な作品だけあればいいとは思わない。このジャンルの敷居はファンが思っているより高い。裾野を広げるにはこういう作品が必要だ。

 最初の表題作「踊るジョーカー」から、バカミスっぽさが炸裂。わははは。日能研もびっくり(ネタばれ)。しかし、成功するんかい? 続く「時間泥棒」は、トリック(HOW?)重視と思われていた北山さんが、動機(WHY?)に着目した点で注目される。なるほど納得。

 「見えないダイイング・メッセージ」は順の兄が登場するが、シャーロック・ホームズの兄であるマイクロフトを彷彿とさせる。まさに逆転の発想。「毒入りバレンタイン・チョコ」は、大仕掛けこそないが物理トリック派らしさを感じさせる。犯人の手間暇が涙ぐましい。

 唯一の書き下ろし「雪だるまが殺しにやってくる」。大雪の中を迷い、屋敷にたどり着いたというありがちな設定。どうして雪だるまなんだとか、四の五の言わずに楽しむべし。手作り感漂うトリックがいいねえ。馬鹿馬鹿しいながらも細部まで考えられている。

 このシリーズが継続するかどうかはわからないが、肩の力を抜いて楽しめる本格短編をどんどん書いてほしいな。と思っていたら、来年1月に『城』シリーズの新刊が出るという情報が。一読者として、一本格ファンとして、来年以降の躍進を期待したい。



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