北山猛邦 06


少年検閲官


2007/02/09

 メフィスト賞受賞作『『クロック城』殺人事件』でデビュー以来、物理トリックに注力し続ける男がいる。現在では数少ないその作家の名は、北山猛邦。

 と僕は認識しているのだが、物理トリックだけでなく、終末思想的な作品世界を構築することも特徴とされている。しかし、そうした世界観は僕にとってはどうでもよかった。あくまで物理トリック命! その他はおまけ! だった、本作を読むまでは。

 何人も書物の類を所有してはならない。そんな読書好きなら薄ら寒くなるような世界設定。書物を隠し持っていることが判明すれば、隠し場所もろとも「焚書」に処される。主人公の少年を始め、多くの人々はもはや書物というものがどんな形かさえ知らない。書物が駆逐されていく、やはりある種の終末思想的世界設定と言える。

 書物というものを知らないのだから、当然『ミステリ』も知らない。しかし、『ミステリ』の記憶を留める者たちがまだ存在していたのだった。彼らは…これ以上はやめておこう。言っておきたいのは、本作は作品世界が大きな意味を持っているということだ。

 トリックだけに目が行きがちだったこれまでの作品と違い、本作はトリックだけを抜き出せば他愛もないだろう。ところが、書物が駆逐されたこの世界においては、その意味が、重みが大きく変わってくる。作品世界を十二分に活用し切った作品なのである。

 これまでの作品では『『アリス・ミラー城』殺人事件』が作品世界をうまく活用していたと言える。また、同作には作中で『ミステリ』の意味を問うシーンがあった。そうしたメタミステリ的要素は本作にも含まれるが、作品世界の一部としてしっかり根幹をなしている。完成度は本作の方がはるかに高い。一つだけ残念なのは、『少年検閲官』というタイトルかな。

 この先電子書籍がどこまで普及するかわからないが、紙の書物がなくなってほしくはない。本とミステリへの愛に溢れた作品、本格好きじゃないあなたもいかが?



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