古処誠二 03


未完成


2001/04/08

 『UNKNOWN』に登場した、防衛部調査班の朝香二尉と野上三曹のコンビが再登場である。続編だが、前作の水準は余裕でクリアしていると断言できる。

 今回の舞台となるのは、東シナ海に位置する伊栗島の通信中継基地。この孤島の基地内の射撃訓練場で、小銃が消失した。秘密裡に事態を収拾するという難題に当たるべく、二人は伊栗島へと派遣される。

 小銃が消失することが、自衛隊にとっていかに一大事なのか。ある雑誌からの受け売りなのだが、自衛隊における武器弾薬の管理は厳しいなんていうものではない。射撃訓練一つ行うにも、複雑な手続きを経る。あまりの複雑さに、射撃訓練を嫌がる隊員も多いという。管理の厳重さ故に、有事の際に即座に武装して出動できる体制になっていないという、矛盾した現状に置かれている。

 こうした事情は、作中で詳しく述べられている。国防上の重要拠点でありながら、あまりにも無防備な伊栗島。自衛隊がはらむ矛盾を巧みに突いた謎解きの面白さは言うまでもないが、現状を憂える謹厳実直で人間臭い隊員たちがいてこその面白さであることは、是非言っておきたい。前作の犯行理由とは大きな違いがある。

 他の駐屯地では考えられない、民間人に対する風通しの良さが背景にあることにも注目したい。自衛隊員が市井の人に溶け込んでいるという図は稀だろう。彼らを含めた島民たちに共通しているのは、不便な島への愛着。だからこそ、事件は起きた。さらにもう一つの物語が絡んでくるが、ここでは触れないでおこう。

 『未完成』というタイトルが意味するものは大きい。もちろん、本作は細部に至るまで「完成」された傑作だ。同時に、作家古処誠二の地位もより磐石のものになった。

 この作品を通じて、わたし自身勉強をさせていただきました―とは著者のことばである。いえいえ、こちらこそ。これからも応援するぞ!



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