古処誠二 04


ルール


2002/04/07

生きることが最も困難だった時代 生きることが最も困難だった場所で

 第14回メフィスト賞受賞作『UNKNOWN』でデビュー以来、着々と作家として足場を固めてきた古処誠二さんが、一年の沈黙を破って新刊を送り出した。講談社以外からの刊行は初であり、初のハードカバー。そして、これまでの作風からは大きく異なる。 

 本作はミステリーではない。既に敗色濃厚な第二次大戦末期のフィリピン山中で繰り広げられた地獄絵図。極度の飢餓と戦う日本兵と、捕虜として捕らえられた米兵、両者の視点から物語が語られる。人が人たる「ルール」とは?

 古処さんも僕も戦後世代である。僕の両親は共に戦前世代だが、積極的に当時を語ることはなかったし、僕の方から積極的に聞くこともなかった。これからもないに違いない。

 誤解を承知で印象を一言で述べるなら、リアリティに欠ける。だが、それは本作の出来が悪いからではない。ここに描かれる有様が、到底人の営みとは思いがたいほど現実離れしているからだ。あるいは拒絶反応と言い換えてもいい。きっと僕は、絵空事と片付けてしまいたいのかもしれない。

 一定周期でマラリアの熱波が襲う。腐りかけた皮膚を蛆が食い荒らし、骨が露出する。わずかに残った柔らかい皮膚に蛭が吸い付く。それを引き剥がしてそのまま口に放り込む。雑草でも何でも食べられるものは片っ端から食べる。しかし、極度の飢餓を前にしては焼け石に水。人として究極の「ルール」が立ち塞がる。

 現代はハイテク・ウォーの時代だ。最新鋭の戦闘メカを操る兵士たちに、本作に描かれたような極限状態は想像もつくまい。指一本で、原形を留めぬおびただしい遺体の山が築かれる。人としての「ルール」が意識されることもなく。

 そんな時代に、戦争を知らない世代が突きつけたメッセージ。決して目を背けるな。



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