古処誠二 05 | ||
分岐点 |
卒業式の定番歌として誰もが知っている「蛍の光」。本作の冒頭に、この歌の知られざる三番が引用されている。その最後の一節には、こうある。
ひとつにつくせ、くにのため。
戦後は歴史の闇に葬られた三番。本作のテーマは、正にこの一節に集約されていると言っていい。ここまで書いたら言うまでもないだろう。古処誠二さんのほぼ一年ぶりの新刊は、前作『ルール』に続き戦争がテーマだ。
時代が終戦間際であることは前作と共通しているが、本作の舞台は内地―日本である。度重なる空襲に感覚も麻痺した国民。本土決戦が迫るに至り、中学生までもが動員される。一つの価値観を叩き込まれた青春時代…。
誤解を承知で言うならば、本作を待望の新刊として紹介するには抵抗がある。もちろん優れた作品だ。古処さんのファンに限らず、多くの人に読まれるべきである。しかし、読むなら覚悟の上で読んでほしい。自分の意志で読んでほしい。13歳の皇国民のように。
僕ごときが説明することは何もない。一つはっきり言えるのは、誰が善で誰が悪か、何が正しくて何が誤りかなど意味がないということだ。頑ななまでに皇国民たろうとした少年も、級友たちも、指導に当たる下士官も、将校も、誰もが片道切符の列車に押し込められた乗客たち。ほんの一握りの権力層を除いては。
明日が見えない現代。だが、本作に描かれた当時とは比較にならない。それが唯一の救いといえば救いだろうか。13歳の皇国民の目に、現代はどのように写るのか…。
本作を読んだ後、「螢の光」にはさらに四番があることを知った。何が皇国日本の分岐点となったのだろう。そして、何が作家古処誠二の分岐点となったのだろう。今後もこういう路線で行くのかは、正直気になるところである。