古処誠二 08


遮断


2006/01/27

 僕が古処誠二に抱く思いは、作家として応援したい気持ちが半分、戦争路線に対する複雑な気持ちが半分といったところである。要するに、全面的に支持はできないでいる。前作『七月七日』は読んでいたのに感想を書きそびれてしまった。

 五作連続となる戦争小説を、刊行から一ヵ月後にようやく手に取った。読み始めて、おやと思う。冒頭のシーンは現代である。ガンと診断された、特別養護老人ホームに入居する老人に一通の手紙が届けられた。物語は、孤独を通してきた老人の回想という形で進む。回想の合間に手紙の一文が挿入されるという趣向である。

 物語の構造は至ってシンプルである。舞台は沖縄。主要な登場人物はわずかに三人。逃亡兵の佐敷真市は、赤ん坊を残してきたという普久原チヨを伴い、故郷の村へ向けて戦火の沖縄を北上していた。途中、片腕を失い右足も骨折した少尉に出会う。

 この戦火で生きているはずのない赤ん坊を探しに、しかも米軍の南下に逆らい北上するなど正気の沙汰ではない。それでも真市には、チヨを連れて村に行かねばならない理由があった。真市が逃亡を図った経緯が絡んでくるとだけ言っておきたい。

 逃亡兵である真市への、沖縄人への侮蔑を隠さない少尉。苛立たしげに言い返す真市。本来組む理由がない両者が、実はお互いを利用しようとしている点がポイントだ。真市は少尉を案内役として、少尉は真市を運び屋として。そこに信頼関係などない。北上という目的が一致しただけ。決して距離は縮まない、しかし奇妙な絆で結ばれた三人。

 それぞれの理由に支えられ、たどり着いた先で明らかになった事実とは。すべては生きるため。真市が部隊でしていたこともだ。そうして生き抜いた結果、老人が人との関わりを避けてきたのは皮肉に過ぎる。そのことを幸せと信じる人生とは何だろう。

 登場人物を絞ることにより、大義ではなく個人と個人のぶつかり合いを描いた意欲作だ。ミステリーとして読めないこともない。それでもやはり思う。古処誠二が戦争小説を書き続ける限り、『ルール』を上回る衝撃を受けることはないだろう。



古処誠二著作リストに戻る