古処誠二 12 | ||
ふたつの枷 |
前作『線』に続き、古処誠二さんの最新戦争小説は短編集である。4編の短編に直接の接点はないが、おおよそ共通している点がある。
第一に、舞台はそれぞれニューギニア、ビルマ、サイパン、フィリピンと外地であること。第二に、時期が終戦前後であること。そして第三に、これまではあまり描かれなかった日本兵と現地人との関わりを描いていており、この点が新機軸と言えなくもない。
敗戦という結果は、当然ながら日本兵と現地人の関係にも影響する。掌を返して戦勝国側につく。敬意が失望に取って代わる。戦争という大義名分の下でなされた、日本兵の行為を追及しようとする。中にはあくまで無邪気に接してくる者もいる。
日本兵同士の関係も描かれるが、戦友として連帯感があるわけでもなく、激しい衝突があるわけでもない。日本兵の間には何とも形容しがたい距離感があり、素直に助かったとは言いがたい虚無感がある。外地で終戦を迎えたからこそ、複雑な空気が漂う。
あのインタビューにある通り、戦争作家古処誠二は「悲惨さに頼らない」方向性を強めているのだろうか。戦争描写というより、人間描写という色合いが濃い。それなのにあまり胸に迫ってこない、このジレンマ。終戦という諦観が全編を覆い、人としての執着を失っているのだから、作家の力量ではなく必然と結果と言わざるを得ない。
本作に登場する日本兵は、生への執着が薄いが、現実には命からがら帰還した日本兵は少なくないし、帰還の望みを果たせなかった日本兵も多い。もちろん内心は複雑だったはずだが、古処さんの描き方はやや一面的であるように感じた。
とはいえ、古処誠二が「生還体験記」など書いても実際の体験者による先例に埋もれてしまうに違いない。戦後世代が戦前世代との差別化を図るため、切り口を変えたとも言える。あまり語られない、日本兵の現地人への所業に切り込んだ点は注目に値する。
だが、タブーに挑戦したとまでは言えまい。戦前世代の模索は続く。