古処誠二 14


死んでも負けない


2012/12/25

 古処誠二さんの最新戦争小説は、正真正銘の新機軸と言える。『未完成』を最後に現代ミステリー路線を捨て去り、10年以上が経過。久々に現代が舞台である。

 戦争小説ということで古処作品を敬遠していた読者は多いと思われるが、本作はコメディタッチであり、敬遠していた読者にこそお薦めしたい。主人公は、ビルマ戦の帰還兵を祖父に持つ男子高校生、哲也。彼の一家は色々と複雑なのだ。

 祖父・武也、父・道也、そして哲也という男3人暮らし。つまり、祖父も父も妻に愛想を尽かされたのだ。その原因はすべて武也にある。戦争中の自慢話ばかり繰り返すが、聞き飽きたなどとは決して言えない。話を聞かないと鉄拳制裁が待ち受けている。

 哲也の母が出て行ったのは、武也の相手をするのに嫌気が差したからに違いない。口答え一つできない夫・道也への不満もあったのだろう。しかし、道也も哲也も、抵抗できるくらいならとっくにしている。できないから奴隷扱いに甘んじるしかない。

 そんな武也も寄る年波には勝てず、日射病で倒れて入院するのだが…看護師の注意はしおらしく聞き、すっかりデレデレ、そしてあっさり退院…。読者は健気に生きる哲也にエールを送りつつ、こんな祖父を持たなくてよかったと胸をなで下ろすだろう。

 しかし、面白おかしく描かれる一方で、複雑な気持ちにもさせられる。戦後は働いていたはずだが、仕事の話は一切出てこない。戦時中の武勇伝にすがるしかない生き方に、やや寂しさも感じる。武也の本音はわからない。

 哲也の唯一の救いと言えるのが、彼女の存在である。この彼女・京子ちゃんが、実に人間ができているのだった。武也に振り回されて予定が変わる哲也に文句一つ言わないばかりか、武也の体調を気遣う。結ばれるといいねえ。

 もっとも、哲也だって十分にできた人間なのだが。将来就職したとき、彼ならどんな上司の下でもやっていける気がする。



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