今野 敏 A-07 | ||
神南署安積班 |
今野敏さん自らライフワークと語る、息の長いシリーズとして知られる安積班シリーズ。安積班シリーズに分類される作品を、僕は『蓬莱』しか読んでいないが、『蓬莱』は安積警部補が主人公とは言い難く、他の安積班メンバーは登場しない。
そんなところへ、TBS系でドラマ『ハンチョウ 神南署安積班』が始まるという情報を耳にした。原作は今野敏さんの安積班シリーズだという。予習も兼ねて手に取ることにしたのが、本作『神南署安積班』である。短編集であり、入りやすいと思ったのだった。
ミステリー読みには物足りないかもしれない。横山秀夫作品のようなひねりはないし、STシリーズのような派手さもない。極めてストレートで、正統的な刑事物である。なるほど、1話完結の連続ドラマの原作には打ってつけ。このまま脚本に使えそうだ。
そんな中でも、安積班の人間関係は興味深い。安積が率いる神南署強行犯係のナンバー2で、安積が苦手にしているらしい村雨。村雨とコンビを組み、安積には抑圧されいるように感じられる桜井。太った体と緩慢な動作は刑事と思えない須田。須田と対照的に、いかにもスポーツマンタイプで動作も機敏な黒木。
安積も人間であるから、部下に疑念を抱くこともあるし、逆に部下が疑心暗鬼に陥ることもある。そうした描写に垣間見える、民間の会社員と変わらない人間臭さが本作の魅力の一つだと思う。安積の悪友で、交通課の速水の存在も見逃せない。
個々の短編では、意外な着地を見せる最初の「スカウト」、ドラマ版第1話の原作と思われる「自首」、ロシアの殺し屋まで出てくる「ツキ」などがいい。とはいえ、シリーズを知っているファンの方がより楽しめるに違いない。茶目っ気たっぷりの掌編「刑事部屋の容疑者たち」を幕間のように配する辺りは、ファンサービスだろう。
ドラマは今日現在まだ3話しか放送されていないが、刑事ドラマの王道的内容だけに、キャストのインパクトがやや弱いのが気になるところ。須田役のドランクドラゴン・塚地武雅だけはイメージにぴったりだが。原作を読み進めつつ、今後に期待したい。