今野 敏 A-09 | ||
陽炎 |
東京湾臨海署安積班 |
TBS系で放映中のドラマ『ハンチョウ 神南署安積班』は、内容はかなりアレンジされ、設定だけを借りたオリジナルに近い。短編集『神南署安積班』の中で、ドラマに描かれていると確認できたのは今のところ2編だけ。それではと他の短編集も手に取った。
ドラマの舞台はサブタイトル通り神南署(実在しない)管内だが、実は原作では舞台が2度変わっている。初登場時、安積班の面々は東京湾臨海署、通称ベイエリア分署に勤務していたが、 臨海署の閉署により新設された 神南署へ異動。その後、臨海署の再開署により再び臨海署へ異動。本作は再異動後の事件を描いている。
『東京湾臨海署安積班』として映像化されなかった理由は、あまりに有名になりすぎた『踊る大捜査線』の影響らしい。2008年には実際に東京湾岸警察署が開署している。だが、湾岸地域に着目した元祖は今野敏さんの安積班シリーズなのだ。
本編に限った話ではないが、「偽装」は須田の直感から捜査が動く様子が際立っている。ドラマ版第3話の原作と思われる「待機寮」。これを読んだだけでも、僕に警察官は無理だとわかる。ドラマは人情物路線が強調されているが…。「アプローチ」は、村雨と須田の刑事としての対照性が興味深い。「予知夢」はそのまんまとだけ書いておこう。
本作の目玉は「科学捜査」だろう。何と、STシリーズの青山が登場するのだ。安積たちレギュラー陣は、完全に青山に食われていて苦笑する。他のSTメンバーや百合根は登場しないが、そこまで出したらどっちのシリーズかわからなくなるので仕方ないか。
須田がまたおいしいところを持っていく「張り込み」。今回も収録された国際犯罪ネタ、短編にするのはもったいない「トウキョウ・コネクション」。ドラマには使われないだろう。最後の表題作「陽炎」は一風変わっているが、どう変わっているかは書けません。
それにしても、毎度安積に「鼻につく」と評される村雨がお気の毒…。負けるな村雨。