今野 敏 D-02
	欠落

　『同期』の続編である。前作では、同期の蘇我を追って公安との大立ち回りを演じた、警視庁刑事部捜査一課の宇田川亮太。今回も公安と対峙することに?

　宇田川の同期の大石陽子が、前作でコンビを組んだベテラン刑事・土岐とともに、捜査一課に異動してきた。2人の配属先は特殊班、通称SIT。植松と土岐にせっつかれ、早速大石と一席を設ける。蘇我のことも話題に上るが、宇田川が知っていることは少ない。

　そして、2人が異動してきて早々に、立てこもり事件が発生。SITが出動するが、犯人の確保に失敗。人質の身代わりとなった大石は、連れ去られてしまう。同じ捜査一課とはいえ、宇田川に報道以上の情報は入らない。当然心配で心配で仕方がない。

　大石の安否を気にしつつ、宇田川は殺人事件の捜査本部に詰める。前作で刑事としての使命感に目覚めた宇田川。捜査をおろそかにするつもりはなかったのだが…。あるベテラン刑事にガツンとやられ、まだまだ未熟であることを痛感させられるのだった。

　被害者の身元すら一向に割れない中、宇田川の直感が転機になるはずだった。管理官も一旦は理解を示した。ところが翌朝にはトーンダウン。捜査体制は現状維持だという。そして、捜査本部には警察庁警備企画課の柳井がやって来た。

　日本の公安の司令塔が出張ってくる時点で怪しいが、現場の捜査員は従うしかない。しかし、公安に楯突いた実績（?）がある宇田川を始め、引き下がらない面々がいた。宇田川を動かしたのは、2人の同期、蘇我と大石の存在ではないか。

　事件の構図そのものより、公安の出方が予想外であった。多くの読者にとって、公安とは小説の中の世界でしかないが、僕が読んだ範囲では、こんな柔軟性を見せたことはない。え?　いいのそれで?　と思ってしまったのは公安への先入観のせいだろうか。

　前作同様、表には出ない蘇我は、裏で色々手を回していたのだろう。それにしても、ただでさえ前作で目をつけられたであろう宇田川は、本作で有志（?）ともどもさらに一線を越えてしまったのではないか?　このシリーズはさらに続くのか。