今野 敏 NS-01 | ||
茶室殺人伝説 |
初期の今野敏作品である本作は、茶道をテーマにした珍しいミステリーである。本作の他に、茶道を扱ったミステリーを僕は東野圭吾さんの『卒業』しか知らない。ただし、『卒業』はトリックに茶道が用いられたものの、茶道がメインというわけではなかった。
鎌倉にある相山流茶道家元邸にて、後継者武田宗順の婚約発表を兼ねた茶会が開かれた。ところが、胸に包丁を突き立てた男の死体が発見される。相山流茶道を習っている小高紅美子は、次男の秋次郎や県警の安積刑事と事件の謎を追うが…。
茶道に関する専門的な内容は必要最小限に抑えられているので、茶道に詳しくなくても心配は要らない。実は、テーマ選択以外の部分にこそ、今野敏さんらしさが発揮されている。それは相山流に受け継がれてきた秘伝に関係しているのだが…ネタばれになるなあ。タイトルから連想されるような密室殺人ではないとだけ書いておこう。
茶道とこの分野を合体させる発想は、今野敏さんにしかできない。ところが、ん? 100p以上を残して決着してしまった? いやいや、本当のクライマックスはここから。残りページは事件の背景と黒幕を探ることに費やされるのだ。
あんな人物やこんな人物まで出てくる相山流の『開祖伝説』。おいおい秋次郎さん、末端の弟子に過ぎない紅美子にそこまで話してしまっていいんかい、と思わなくもないが、『開祖伝説』はこれだけで作品を書こうと思えば書けそうである。証拠となるある物を探し求めて、紅美子と秋次郎は京都へ飛ぶのだが…。
…それだけですべてが立証されたことになるのかなあ? と、正直思ってしまったが、十分に楽しめた。復刊させた講談社は、なかなか目の付けどころがいい。大傑作とまでは言えないけれど、男女2人のコンビが活躍したり、舞台が鎌倉から京都へ移ったり、2時間ドラマの原作として打ってつけではないだろうか。決して茶化してはいない。
なお、県警の安積刑事は、後に登場する警視庁の安積警部補とは別人だろう。