東野圭吾 02

卒業

雪月花殺人ゲーム

2000/05/11

 本作と『眠りの森』、『悪意』の三作を、僕は「加賀恭一郎三部作」と呼んでいる。その理由については、他の二作の読後感想を参照いただきたい。

 秋を迎えた、加賀恭一郎たち七人の大学四年生の男女。彼らは気心の知れた良き仲間だった。しかし、ある日仲間の一人である祥子が自室で死んでしまう。自殺か、他殺か? さらに、恒例の茶会の席で第二の事件が起きる。疑心暗鬼に捕われる仲間たち。彼らの絆が、徐々に崩壊し始める。

 剣道に打ち込む熱血漢、加賀恭一郎は死の謎を追及する。待ち受けていたのは、あまりにも残酷な事実だった…。

 本作は、読者によって様々な読み方が可能だろう。ミステリーでもあるし、学園小説でもあるし、恋愛小説でもある。祥子の死の謎。サブタイトルの由来でもある、裏千家の「雪月花之式」の茶会で起きる第二の事件。不可解な剣道の試合結果の謎。愛し合う男女にすれ違う男女。見所を挙げていったらきりがない。ネタばれになるので詳しくは書かないでおくが、東野さんのその後の作風の広がりを予想させる魅力が満載だ。

 色々と魅力は尽きないが、本作の最大の魅力は、やはり間もなく社会に巣立とうとする若者たちの青春群像にあるだろう。若かりし東野さんならではの、加賀恭一郎たちのリアルな人物描写。そのひたむきさ、シニカルさ、繊細さ。それ故に、時には助け合い、時には傷つけ合う。そして彼らは卒業し、社会へと巣立っていく。その様は甘酸っぱくもあり、残酷でもある。

 哀しい物語には違いない。彼らの絆が深いからこそ、よけいに切なさが募る。同時に、力強い物語でもある。うーん、僕にもこんな時代があったのだろうか…。



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