今野 敏 PQ-03


妖獣のレクイエム


2010/04/24

 『奏者水滸伝 古丹、山へ行く』と改題されたシリーズ第3作。前作はドラマーの比嘉隆晶を中心に展開したが、今回の中心人物はピアニストの古丹神人。

 広域連続惨殺事件が発生し、現場はつくば、千葉、埼玉、東京と移動してきていた。遺体には野生動物のような爪跡が残されていたのだが…。北の大地に生き、メンバー中誰よりも自然を知る古丹だけは、何かを感じとっていた。

 本作の内容は、『妖獣のレクイエム』という原題がすべてを物語っている。そもそも4人がジャズメンである必要があるのかという、それを言っては元も子もない疑問がつきまとう、このシリーズ。シリーズ第3作にして、かなり苦しい展開と言える。

 前作『超能力者狩り』は、成り行き上しかたない面もあったし、4人がシンパシーを感じる理由も理解できた。だが、本作は自分たちから首を突っ込んでいる。1人で突っ走る古丹を、見るに見かねて手を貸す3人。4人の結束の固さを示していると解釈できないこともない。前作で顔見知りになった刑事が、引っ張り出したという面もある。

 B級ホラーと紙一重な設定と、古丹だからこそ感じた気持ちを、どこまで受け入れられるかで評価は変わるかもしれない。しかも、CIAにKGBと、当時の東西の2大諜報機関まで大真面目に動き出す。「山へ行く」ってその山のことかい。

 それにしても、戦闘シーンがよく描かれる今野敏作品だが、こんな対戦は本作しかないだろうなあ。あれほど人間離れした古丹でも、苦戦を強いられる。2人(?)の世界に入る余地はなく、手に汗握るというより戸惑うしかなかった。

 比嘉、古丹という剛の2人に続き、次作でスポットが当たるのは柔の遠田宗春である。日本の当局だけでなく、CIAとKGBにもすっかりマークされた4人が、進むべき道とは、戦うべき相手とは何だろう。何より、彼らがバンド活動を続ける理由が、見えてこないのが気になるところ。今後の展開は神のみぞ…いや、木喰のみが知る?



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