今野 敏 PQ-05


復讐のフェスティバル


2010/10/28

 『奏者水滸伝 四人、海を渡る』と改題されたシリーズ第5作。前作『超人暗殺団』の解説によれば、本作は演奏シーンがたっぷりなはずなのだが…。

 西荻窪の小さな店『テイクジャム』以外では決して演奏しなかった四人が、海外レーベルからの招待を受け、ジャズフェスティバル出演のため北米に飛ぶ。ところが、開幕直前に殺人事件に遭遇し、猿沢と比嘉が容疑者として拘束されてしまった。

 毎回何らかの陰謀にメンバーが巻き込まれるのがこのシリーズのお約束だが、今回ばかりは完全なとばっちり。たまたま泊まったモーテルで殺人事件が発生したのだから。こうなりゃ猿沢と比嘉の容疑を晴らし、真犯人を探すしかない。

 猿沢と比嘉の拘束を聞きつけたFBIのアダムスンが、ワシントンの本部からロス市警に駆けつける。意外に義理堅い男らしい。彼の尽力もあり、猿沢と比嘉は釈放されるが、そんなに呆気なくていいのか? 日系人の刑事イシクラが理解ある男でよかったね。

 常人離れしたメンバーが弱さを見せるところが興味深い。飛行機の狭いシートで、蒼い顔をしている古丹。野外ステージに不安を隠さない宗春。そして、異国で連行された猿沢。知性派にしては意外だが、英語は苦手。こんな気の弱い羅漢がいるもんか…と弱音を漏らす猿沢に、ちょっと親近感がわく。唯一英語が堪能な比嘉だけが、生き生きしている。

 事件の鍵を握っていたのは、実は………えええええっ! そんなのありかよ。そういう実験が行われたのは聞いたことがあるけれども…。日系人の刑事イシクラが理解ある男でよかったね。戦闘に持ち込めばもうこっちのもの。

 終盤に至ってようやくステージに立つが、最終決戦の最中に開演するなど、もうはちゃめちゃ。さすがの「彼」も、プレデターと戦っているような気分を味わったに違いない。今回は宗春の見せ場がほとんどなかったねえ。木喰は何のために同行したんだ。

 海外進出した割にはこぢんまりとまとまっているような、番外編的作品…か?



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