今野 敏 SJ-05


失われた神々の戦士


2009/11/16

 『特殊防諜班 諜報潜入』と改題・復刊されたシリーズ第5作。サブタイトル通り、真田はシリーズ初の潜入調査を試みる。その潜入先とは…。

 本作は第1作『新人類戦線 “失われた十支族”禁断の系譜』に描かれた新興宗教教祖の連続誘拐事件と繋がっている。真田とザミル、少女と老人の4人が関わった教団は、二代目を名乗る男により掌握されていた。それは新たな陰謀の序章だった。

 いきなり異種格闘技戦(戦闘ではなくリング上での試合)から始まる。格闘家らしい体格には見えないリング上の男に、真田の目は釘付けになっていた。

 前4作の内容に密接に関係があるだけに、ネタに触れずに感想を書くのは難しい。解説はもはやネタばれにお構いなしになっているが…。敢えて特徴を挙げると、第3作『ユダヤ・プロトコルの標的』でユダヤの血がクローズアップされていたのに対し、本作では真田に流れる血が大きなテーマになっている。真田は自らの血に誇りを感じつつあった。

 誇りを感じるが故に、任務以上に入れあげてしまう真田。特殊防諜班としては警戒が疎かではないかと言いたくなるが、真田は格闘のプロであっても諜報のプロではない。真田の気持ちは、同じ血を有する者にしかわからないのかもしれない。

 中東戦争阻止に忙殺されるザミルの見せ場は今回は少ないが、真田たちが気になって気になってしかたがない様子に、モサドのエージェントらしからぬ人間臭さを感じる。使える手は何でも使う、モサドの何たるかを見よ。利用された「彼」にはお気の毒で苦笑したが。天下の多国籍企業にしては情報管理が緩いような…。

 今回は武器による戦闘は少なく、肉弾戦が中心である。それだけに、格闘シーンの描写はかなり濃密だ。真田を突き動かすのは誇り、そして誇り故の怒り。実にやっかいな敵が出現したものだ。第6巻の刊行が待たれるが、来年だろうなあ。

 そして、老人はいつ動く?



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