今野 敏 ST-08

ST 警視庁科学特捜班

黒の調査ファイル

2009/04/10

 STメンバー5人にスポットを当てた「色」シリーズの、最後を飾る第5弾。沈黙の第一化学担当、黒崎勇治が自ら動き出す。しかし、やはり台詞はほとんどない。

 STシリーズ第1作『ST 警視庁科学特捜班』以来、久々に中国マフィアを相手にするが、まったく別の組織らしい。第1作は伏線かと思っていたが、あれはあれで終わりなのか。

 新宿歌舞伎町で発生した連続不審火。中国マフィア同士の抗争と見る組織犯罪対策課は、さっさと放火の証拠を挙げろと捜査陣とSTに迫る。しかし、放火の痕跡は黒崎の嗅覚をもってしても見つからない。一方、ワンクリック詐欺に遭った役者志望の男内藤茂太が、中国マフィアの名を騙って悪徳業者に復讐しようと画策していた。

 本作の初版刊行は2005年8月だが、当時、ワンクリック詐欺という手口は十分に知られていたように思う。茂太の不用意さにまず呆れてしまった。それはともかく、悪徳業者に復讐しようなんて普通は考えないだろう。相手の背後に、どんな凶悪組織が控えているのかわからないのだ。話はどんどん具体化し…あれ、メンバーに黒崎が???

 STメンバーも手を焼く不審火の謎。しかし、調子に乗って発火の様子を録画したDVDを送りつけるとは。おかげで黒崎が突き止めた。って、第一化学担当なのに物理にも強いのか? 物理担当の翠も現場の共通点に早くから気づいていたが。僕は理系だがこの現象はまったく知らなかった。東野圭吾さんの『ガリレオ』シリーズに相応しいネタだ。

 武術の達人である黒崎が中国マフィアと対峙するのだが、派手な格闘シーンを期待すると拍子抜けするだろう。本作の主役は黒崎だが、安易に格闘シーンを見せ場にしなかったのには理由がある。最後に気づかされる黒崎という男の思慮深さこそ、本作の読みどころ。黙して語らぬ分、頭は高速で回転しているのだ。部下としては使いにくいタイプだが…。

 それにしても、ITに強そうな割には黒幕が間抜けすぎるぞ。裁判がどう転ぶのか。大変珍しい黒崎の台詞をもって、STシリーズは一区切りを迎えるのだった。



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