今野 敏 ST-10

ST 桃太郎伝説殺人ファイル

警視庁科学特捜班

2010/11/24

 STシリーズ第3期、「伝説の旅」シリーズ第2弾である。今回の舞台は岡山。前作『為朝伝説殺人ファイル』のようにあちこち飛び回らず、桃太郎伝説発祥の地とされる岡山に腰を据えて、じっくりと伝説の謎に迫っている感がある。

 東京、神奈川、大阪の3箇所で発生した殺人事件の遺体には、モモタロウ≠フ文字と五芒星が刻まれていた。被害者はいずれも、岡山に関係する人物だった。岡山県警の特命班の依頼を受けたST一行が、事件と桃太郎%`承との関わりを探る。

 わははははは、すごいなこりゃ。前作は為朝伝説と事件の関わりがかなり苦しかったが、今回は密接に関わっている。それもそのはず、事件の首謀者は、桃太郎伝説になぞらえたメッセージを残し、警察に挑戦しているのである。一応現実社会を舞台とした警察小説に、見立て殺人ネタをぶつける今野敏さんの大胆さに脱帽。

 STメンバーの活躍は、文書担当青山の独壇場である。こんなまだるっこしいメッセージに気づいてやれるのは青山だけだろう。真意を読み解くためには、桃太郎伝説のみならず、陰陽五行に精通していなければならない。陰陽五行という思想が存在することくらいは知っていたけれども…何とまあ奥が深いことか。ちょっと苦しくない?

 犬・猿・雉を従えて、鬼ヶ島に乗り込み、鬼退治…というのが一般に知られている桃太郎の話だろう。それを大きく覆す、真の桃太郎伝説は、純粋に読み物として興味深い。あの桃太郎が、実は…。本作をガイドブックにすれば、桃太郎伝説を辿る吉備路の旅ができそうだ。って、やっぱり旅番組っぽいなこのシリーズ。

 STの係長である百合根が、改めてキャリアという立場について考えさせられる点にも注目したい。警視庁の百合根も、STを受け入れた岡山県警の関本も、警察庁から出向しているキャリアである。百合根はいずれ、STメンバーとも、ノンキャリアの菊川とも、違う道を歩んでいく。最初はいけ好かない奴だと思った関本だったが…以下秘密。

 来月は「伝説の旅」シリーズの3年ぶりの新刊が予定されている。次はどんなこじつけ…ではなく力技を見せてくれるのか、楽しみに待ちたい。



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