倉知 淳 08 | ||
猫丸先輩の推測 |
シリーズキャラクターの移籍(?)という例はたまに見かけるが、東京創元社から刊行されていた猫丸先輩シリーズが、講談社ノベルスからも刊行された。何はともあれ、こんな先輩はイヤだランキング上位は固い猫丸先輩が、さらに本領を発揮する。
どうだよこのタイトル。猫丸先輩の「推測」である「推測」。解説で加納朋子さんも述べているが、「推理」ではない点がポイント。猫丸先輩は、与えられた情報から自分なりの解釈を披露しているだけなのだが、それが十分な説得性を持っているのだ。『日曜の夜は出たくない』では殺人事件も扱っていたが、本作では誰も死なないし怪我もしない。
最初からとっても感心させられた「夜届く」。病気だの火災だの、不吉な内容の電報が夜な夜な届く。その裏に込められた意図とは。こういう「傲慢」さは、自分にもあるだろう。花見の場所取りを命じられた新入社員に魔の手(?)が迫る「桜の森の七部咲きの下」。自分も経験があるけど本当に暇だよねえ。本当かどうかは問題じゃない。こんなに楽しければ。
愛猫家なら気持ちがよくわかる「失踪当時の肉球は」。動物専門探偵という設定から荻原浩さんの『ハードボイルド・エッグ』を思い出す。どこかずれた探偵氏と猫丸先輩の好対照も面白いが、やはり解釈に唸る。大型店に客を奪われる商店街という構図が興味深い「たわしと真夏とスパイ」。南口商店会に幸あれ。余談だが、地元の商店街が寂れる一方、大型ショッピングセンターがオープンしたら驚くほど客が集まったものだ。
動物園でのひったくり騒ぎの真相は、「カラスの動物園」。キャラクターデザイナーとして後がない彼女。猫丸先輩もびっくりの発想力、まだまだできるんじゃない。でも、それはやめといた方が…。ラストを飾る「クリスマスの猫丸」。いくら猫丸先輩の解釈が聞けるとはいえ、それは高いよなあ。気の毒な後輩八木沢君。ファミレスくらいなら考えないでもない。
今年は割と大作を多く読んできたので、肩の力を抜いて楽しめた。雰囲気はライトだが、猫丸先輩の(倉知さんの?)発想力に思わずひざを打つ、それがこのシリーズの魅力。探偵役が、某落語家や某絵本作家のような人格者タイプじゃないことも(大変失礼)。
短編集の感想を書くとき、もっと各編に詳しく触れたいといつも思うんだよね。