倉知 淳 10 | ||
猫丸先輩の空論 |
倉知淳さんの最新刊にして、猫丸先輩シリーズ最新作である。同じ月にシリーズ前作『猫丸先輩の推測』が文庫化されたのは、セットで買ってねという講談社の計算か?
どうだよこのタイトル。猫丸先輩の「空論」である「空論」。「推測」でさえなく「空論」である。猫丸先輩は、与えられた情報から自分なりの解釈を披露しているだけなのだが、それが十分な説得性を持っているのだ。やっぱり誰も死なないし怪我は…してるか。
最初からとっても心が洗われた「水のそとの何か」。美形のイラストレーターの自宅に毎日置かれる水入りのペットボトル。その法則と意味とは? 何て素敵な解釈じゃないですか。こじつけだなんて言ってはいけない。ところがやっぱり猫丸先輩は人が悪いな「とむらい自動車」。でも解釈はさすが。これは思い当たる人多いんじゃない?
愛猫家なら気持ちがよくわかる「子ねこを救え」。本作中最も考えさせられた。子ねこを救いたい彼女の気持ちに悪意はないのだろう。しかし、猫丸先輩は先入観で判断することを戒める。僕も肝に銘じなきゃ。どこかで聞いたようなタイトルだな「な、なつのこ」。スイカ割り公式ルールなんて始めて知ったよ。ところが、競技に使用されるはずのスイカが被害に遭う。猫丸流解釈が無事騒動を収めてめでたしめでたし。あら、こんなオチが…。
どこかで聞いたようなタイトルだな「魚か肉か食い物」。外見からは想像もできない大食い女性。そんな彼女の女心の機微に思い至るなんて憎いねえ猫丸先輩。あ、大食いが見たいだけですかそうですか。ラストを飾る「夜のクリスマス」。深夜のオフィスでイヤーな解釈を与えられる、やっぱり気の毒な後輩八木沢君。さっさと残業切り上げなさい。
何だかシリーズを重ねる度に事件性が薄くなっていくが、猫丸先輩の(倉知さんの?)発想力に思わずひざを打つ、それがこのシリーズの魅力。ところで、前作と本作の各編タイトルには元ネタがある。僕には海外物はわかりません。
次は長編を読んでみようっと。