京極夏彦 38


虚言少年


2011/08/03

 うーむ、少年版『オジいサン』か? 有体に言ってしまえば青春小説なのだろうが…ここには美しい青春などない。緑山田小学校の6年生、健吾、誉、京野のトリオはクラスでも目立たない存在。いや、目立たないようにして過ごしていた。

 時代は昭和らしい。作中に散りばめられた昭和のキーワードからして、おそらく僕と年代が近い。現代のキーワードも見かけるのはまあご愛嬌。で、読み始めたのだが…最初の「ソノ一・三万メートル」から苦戦を強いられたのだった。

 …何なんだよこの理屈っぽいガキはっ!!!!! あーでもないこーでもないと御託を並べ、ようやく本題に入ったのはもう終わり近く。全編こんな感じだったらどうしよう…。

 と、先が思いやられたのだが、「ソノ二」以降は割と速やかに本題に入り、子供社会らしい馬鹿馬鹿しさを前面に出している。読み進めるほど馬鹿馬鹿しさの比重が上がり、気づいたときにはにやけていたのだった。今から思えば、ネットも携帯もファミコンもない僕らの少年時代は、くだらない話題でいつまでも笑い、盛り上がれたものだ。

 スポーツ少年団に入っていなければ塾にも通っていなかった僕には、このトリオの処世術がわかる気がする。女子にもてたいとまでは思わなくても、嫌われたくはないとは思っていた。クラスのリーダー格には気を遣った。日々平穏無事が何より。

 そんな少年時代、何が面白かったかといえば、一つは友人の失敗である。しつこく話題にされ、実は本人は傷ついていたかもしれないが、逆に僕が笑いの対象だったこともあるし、お互い様。現代で言う「いじめ」のような認識は、当人たちにはなかったのだ。

 でもねえ、何より面白かったのは下品な話題である。最後の「ソノ七・屁の大事件」は、誰でも覚えがあるエピソードではないだろうか。この1編は最初から下品さ全開。これだけでも読んだ甲斐があった。わははははは。笑った。心から笑った。

 ネット時代の現代、人は笑い流すことが下手になった。



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