京極夏彦×柳田國男


遠野物語remix


2013/04/26

 岩手県人であるから、柳田國男著『遠野物語』の存在は昔から知っていたが、この年になるまで手に取ったことはなかった。元々古典作品はほとんど読まない。ところが、京極夏彦さんの手による、その名も『遠野物語remix』が刊行されるという。

 要するに、原著を京極夏彦さんが現代語に書き改めた本である。よく似たコンセプトの作品として、『旧怪談』がある。根岸鎮衛による江戸の奇談随筆集『耳嚢』を、現代風にアレンジしたものだったが、個人的にはアレンジしすぎだと感じた。

 原著は明治43年に自費出版で初版刊行されている。『青空文庫』で原著を閲覧することができるが、現代語とそれほど大きな差はないように思う。古文が苦手だった僕でも何とか読めるかもしれない。とはいえ、やっぱり現代語の方が読みやすいわけで。

 僕が読んだ限り、remixは必要最小限に留めている印象を受けるが、内容を熟知していなければできない仕事だろう。普通に怪談集として面白い。遠野は実家から近いので知っている地名も多いが…何て恐ろしい土地なんだ遠野!!!!!

 原著は、遠野郷に伝わる伝承や習俗をまとめたものとされているが、本作によると、柳田國男は「これは現代事実として語られている物語である」と断言しているのだ。もうすぐ大正になろうかという時代に。それだけ真剣に耳を傾けたということか。

 現代の遠野は、怪異の里というより民話の里をアピールしている。観光地化されたカッパ淵に、本気でカッパが現れると信じている人はいないだろう。それでも、オシラサマやコンセイサマなどの伝承は根強く残り、ネット時代にあっても独特の空気が流れている。

 1つ疑問に思ったのは、本作は原著の収録順を大きく変えていること。何か意図があってのことなのかはわからない。ただし、最後に収録されている獅子踊りの歌は、原著でも最後に収録されており、現代でも歌い継がれているという。

 遠野にはまだまだ知らないところが多い。ゆっくり訪れてみたい。



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