円居 挽 01 | ||
丸太町ルヴォワール |
通常、ミステリーにおいて読者が重視するのは、何よりも真相の解明に驚けるかどうかではないだろうか。ところが、真相の解明が重要ではないミステリーがあるとしたら。
その作品名は、心のどこかに引っかかっていた。講談社文庫化されたのを機に、手に取ってみた。初版は講談社BOXから刊行されているが、それほどとんがった作風ではない。本作は、純粋にミステリーとしての構成力で勝負している。
祖父殺しの嫌疑をかけられた御曹司。彼は当日、屋敷にルージュと名乗る女がいたと主張するが、痕跡は一切残っていなかった。事件は自然死として処理されたが、それから3年後、古より京都で行われてきた双龍会(そうりゅうえ)が開かれることになった。
双龍会とは、いわば模擬裁判のこと。双龍会用語では、被告は御贖(みあがない)、裁判長は火帝(かてい)、弁護士は青龍師、検事は黄龍師、証人は鳥官という。それはともかく、正式な裁判ではないし、刑事上も一応決着している。
事件発生を描いた第一章だけがやや読者を選ぶか。しかし、いけ好かない男女のやりとりを突破し、第三章の双龍会本番に入れば、一気に読み進むだろう。裁判ごっこにどうしてこんなに惹き込まれるのか。論理性は求められるが、ぶっちゃけた話、真相よりもどちらの説がより面白いかの勝負。そのためには手段を選ばない。
お互いに相手を追い詰めたと思ったらひっくり返され…というどんでん返しの連続が、本作の読みどころ。ミステリーとしてフェアかどうかは意味がない。アンフェアもアンフェア。しかし、不思議と許せてしまうし、芝居がかった演出も苦にならない。
恋愛や萌えの要素が過剰というわけでもなく、作品のスパイスとして許容範囲ではないだろうか。円居さんはあの京都大学推理小説研究会出身である。京都が舞台という点も、こんな作品世界が受け入れられる一因かもしれない。
なお、どんでん返しの連続という点では、山口雅也さんの『ミステリーズ』に収録の「解決ドミノ倒し」を思い出す。このテクニカルな短編と一概に比較はできないが、もうちょっとテンポが速ければという気がしないでもない。とはいえ、読ませる作家には違いない。