山口雅也 05


ミステリーズ


2000/06/03

 本作は、1995年版『このミステリーがすごい!』で第1位に輝いた。山口さんご自身も、本作を代表作の一つとお考えのようだ。

 本作は短編集だが、2枚組のCDに見立てるというコンセプトで各編を配置している。山口さんのあとがきによれば、《DISC-1》《DISC-2》に分けられた各編の配置には意味があり、その意味は読めばわかるだろう、とのことである。うーん、正直なところ僕にはわからなかった。修行が足らないのか?

 本作全体を通じたもう一つのコンセプトは、「逸脱」もしくは「狂気」だそうである。こちらは納得できなくはない。しかし、ミステリーと分類するには違和感がある作品が多いような気がするが…。特に、ノベルス版以降に「ボーナストラック」として追加された「《世界劇場》の鼓動」は、どう考えてもファンタジーじゃないかい? ミステリーの定義なんて今ではかなり曖昧になっているけど。

 全体のコンセプトは置いておくとして、個々に目を向けると、《DISC-1》に面白い作品が集中しているように思う。中でも、「解決ドミノ倒し」が傑作だ。この短編は、作中に何回どんでん返しを盛り込めるかという技術的挑戦の記録である。内容も馬鹿馬鹿しいが、オチがさらに馬鹿馬鹿しい。「禍なるかな、いま笑う死者よ」、「音のかたち」などのブラックな味わいも捨てがたい。

 一方で《DISC-2》の方は…出来が悪いとは思わないが、難解な作品が多いかな。特に、ラストを飾る「不在のお茶会」は僕にとっては極めて難解だ。何となく、『續・日本殺人事件』に収録の「実在の船」に似た雰囲気を感じるが…。「幻の長編」がモチーフになっているのは興味深い。

 やっぱり僕は修行が足らないようである。しかし、本作は山口さんの実力の片鱗を示す作品集であるとは思う。



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