舞城王太郎 12 | ||
ビッチマグネット |
前作『ディスコ探偵水曜日』は上下巻のボリュームに恐れをなして回避したので、3年ぶりに読む舞城作品である。手頃な長さでなければ、また回避していただろう。
読み始めてすぐに感じた。ろくに句読点も打たない『煙か土か食い物』の悪文を思い返せば、舞城作品もずいぶんと読みやすくなった。読みやすいだけではない。内容は《日常》そのもの。毎回評価に困っていた一読者としては、あまりの普通さに逆に戸惑ってしまった。舞城作品らしさを感じるのは『ビッチマグネット』というタイトルくらいである。
設定だけ見れば決してほのぼのなどしていない。愛人を作って家を出たままの父。弟・友徳のとんでもないガールフレンド、三輪あかりちゃん。どんなに仲がいいからって、弟と同じ布団で寝る姉・香緒里にはさすがにあらぬ疑いをかけてしまう。十分にゴタゴタしているはずなのだ。それなのにからっとしているんだよなあ。
姉弟喧嘩に恋人との喧嘩、父との確執、なぜか父の愛人との交流。それでもまったくドロドロを感じさせないのだから、この手腕は大したもの。これならあの宮本輝氏も認めてくれるかもしれない。しかし…読後はとっても爽やかなんですがね、本作で訴えたかったことって一体何??? 《日常》だけに、テーマが見えない…。
根底にあるのは姉弟愛なのだろうが、愛の物語と呼ぶには胸に迫ってこない。成長記としてもクライマックスがない。僕の読み方が悪いのかなあ。香緒里が友徳を救うべくホテルに乗り込むシーンが読みどころと言えなくもないが。
そんな中で印象に残ったのは、序盤で香緒里が悩むシーン。物語ってどうやって生み出すんだろう。《経験》ってどうやったら手に入れられるのだろう。でも、現実と地続きの小説を書いている作家さんはたくさんいるよね? 僕もつくづくそう思う。
結局、僕は《日常》の物語を書ける舞城王太郎に嫉妬しているのかもしれない。