麻耶雄嵩 05 | ||
メルカトルと美袋のための殺人 |
絶版状態にある初期の麻耶雄嵩作品のうち、本作が集英社文庫より復刊されることになった。『貴族探偵』を集英社から刊行した縁だろうか。麻耶マニアには喜ばしいことだろう。麻耶マニアとまではいかない僕も手に取ってみた。
最新刊の『メルカトルかく語りき』は、本作の続編と考えていいのだろうか。『メルカトルかく語りき』は反則度が高い作品集だった。真面目に考えるだけ無駄だが、僕のツボにはかなりはまった。本作も反則度は高いが、『メルカトルかく語りき』ほどではないかな。反則なようでフェアな顔もあり、コンセプトが中途半端な印象を受ける。
オープニングからやや長い「遠くで瑠璃鳥の鳴く声が聞こえる」。目撃証言の矛盾は、メルカトルが鮮やかに解き明かすっ! ……。そういう事例を聞いたことはあるけどさ。「化粧した男の冒険」。珍しく合理的な説明だと思いきや、裏があった。……。
「小人闍処ラ不善(しょうじんかんきょしてふぜんとなす)」。依頼の段階で一蹴してしまう銘探偵。……。このタイトルが、メルカトルの傲岸不遜ぶりを如実に示している。「水難」。ごっ、合理的だっ! 裏もないっ! ある現象を認めれば……。
「ノスタルジア」。メルカトル作の犯人当て小説を手渡され、謎解きに挑む美袋。もちろんアンフェアです。こんな恐れ多い名前を使うかっ! 「彷徨える美袋」。メルカトルの探偵哲学が端的に現れている。謎解きのためなら相棒も泣かすってか。……。
「シベリア急行西へ」。絶対何か裏があると思いながら読んでみたが、普通の本格だし、メルカトルも普通の探偵役ではないか。普通であることが物足りなく思える探偵も珍しい…。旧ソヴィエト連邦の警察をどうやって納得させたのか?
自らを長編に向かないと言い切る銘探偵・メルカトル鮎。そりゃそうだろう、長編に使ったら怒られるネタが多い。でも、僕は好きだねこの路線。ただし、長編に向かないという点でも『メルカトルかく語りき』の方が上回っているかな。