麻耶雄嵩 12 | ||
貴族探偵 |
あの問題作『神様ゲーム』以来、実に約5年ぶり。ミステリ界でカルト的人気を誇る麻耶雄嵩さんの新刊である。この間どうやって生計を立てていたのか心配になってくるが、さほど熱心なファンとは言えない僕も手に取ってみた。
毎回、既存の本格のフォーマットを微妙に崩す麻耶作品。今回は、探偵役が自称「貴族」である。しかも、この探偵役とういうのが自分では何もしない。実際に調査をし、謎解きを披露するのは、彼の執事にメイドに運転手。
いわゆる「安楽椅子探偵」と称される探偵役は、古今東西数多くあれど、推理すらしない探偵役というのは前代未聞。ある意味、『神様ゲーム』における自称「神様」さえも超越した存在と言える。そうした人を食った設定は結構なのだが…。
全5編中、最初の「ウィーンの森の物語」の初出は2001年2月で、最後の「春の声」は2009年9月。単行本刊行まで10年以上を要した割には、本格ミステリとしての出来は可もなく不可もなし。むしろアンフェアな真相が多い。ネット上では絶賛派も多いようだが、僕の読み方が悪いのか、本格への理解が足りないのか。
唯一面白いと思えたのは最後の「春の声」。麻耶さんらしい力技の片鱗が感じられたからである。他の4編は、現実を逸脱しない無難な仕上がり。デビュー作『翼ある闇』のとんでもない力技に基準を置いたら、無難に映るのは当然なのだが。
麻耶さんのインタビューによると、短編に独特の世界観とかを書き込んでいたら枚数が足りなくなり、本格の部分が薄くなるという。それではもったいないというか、麻耶さんの個性が出ないのではないか。ぶっちゃけた話、僕が麻耶さんに期待するのは、呆れるほどの強引さである。人物の魅力など求めない。もっともっと壊れろ。
先のインタビューによれば、長編『隻眼の少女』が刊行間近だという。どんな力技を見せてくれるか、期待したい。結局文句を言ってしまったらごめんなさい。