麻耶雄嵩 06





2009/01/04

 '98年版('97年)『本格ミステリ・ベスト10』第1位。その筋の人には評価が高そうだが。

 本作を読み終えた後、正直どこがすごいのかわからなかった僕は、とりあえず'98本格ミステリ・ベスト10を読み返してみた。作家でもある笠井潔氏と法月綸太郎氏、評論家の千街晶之の3氏による座談会を読む限り、さほど評価は高くなさそうである。

 もちろん、3氏の評価が絶対的ということはない。しかし、普段は読み飛ばすアンケート回答を読んでも、ネット上を巡っても、やはりどこが評価されたのかわからない。曲者中の曲者、麻耶雄嵩の作品だけに、あまりにも拍子抜けというか…。

 弟・襾鈴(あべる)の失踪と死の謎を追って、兄・珂允(かいん)がたどり着いた地図にない村。それは現代社会にあって、大鏡の絶対的支配下に置かれ、外界から隔絶された異郷だった。大鏡に迫ろうと動く珂允だが、「外人」の彼に連続殺人の容疑がかけられる。

 印象を一言で述べると、実に古色蒼然とした本格ミステリである。横溝正史著『本陣殺人事件』が発表された1946年でもこんな村ないだろうが。まあ設定はいい。最終的に驚ければ。文庫版で約550pは正直冗長に感じたが、一縷の望みにかけて読み進む。

 かなり乱暴な分類だが、本格ミステリには真相が瞬時に理解できるタイプと、よく考えないとわからないタイプがあると思う。本作『鴉』は後者に属する。読み終えた直後に終盤を読み返す。村人のほぼ全員が〇〇〇〇なんてことがあるんかいとか、突っ込みどころを探すときりがないが、まあ説明はされている。でもねえ、基本的に本格にはお馴染みの手法の組み合わせ。だからこそ、どの辺がすごいのかさっぱりわからない。ところが…。

 最後の最後に銘探偵メルカトル鮎が明かした事実とはっ! 個人的に、こういう前提をすべてひっくり返すような作品は高く評価できない。今まで読んできたのは何だったんだってことになる。メルカトルの出自なんぞどうでもいい。というか、出てくる必要があるのか?

 解説は笠井潔氏だが、こちらでは「大きな成功」と述べている。専門家とは評価軸が違うのか。今のところ、麻耶雄嵩さんは『翼ある闇』で燃え尽きた作家という気がする。



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