麻耶雄嵩 07 | ||
木製の王子 |
ざーけんな金と時間返せおんどりゃあああああ! と切り捨てるのは簡単である。ぶっちゃけた話、本格というジャンルは「狂人の論理」で成り立っているのである。本格を読むような好事家が、作品を高く評価するのはどんな場合か。何かツボを刺激するポイントがあるかどうか、結局それに尽きるのではないか。
ツボを刺激するものが一つでも見つかれば、狂人の論理だろうと時代がかった閉じた世界だろうと、全体も何となく許せてしまう。少なくとも僕の場合はそうである。『翼ある闇』の何がツボだったかというと、「あの」密室トリックだったと思うのである。あれがなければ、僕も罵詈雑言派に回っていたかもしれないのである。
さあ、本作のツボは何だっただろう。やはり、分単位の精緻極まりないアリバイ崩しか。ええと、34分に(2)のアトリエから廊下Bを通り(3)の自室にデッサンの資料を取りに降りてきて、36分、37分と来た道をアトリエへと戻り………って追ってられるかこんなもーん! 何だよこの時刻表家族は! 本格のファンたるもの、これを図面片手に丹念に追っていかねばならんのか? 読み流した僕はファン失格か?
違うツボを探してみよう。家系図の簡潔にしてシンメトリックな美しさか。しかも、登場する名前が宗・禎・尚・佳・規・伸・晃・子の8文字だけを使い回して付けられていることか。って、翻訳物より名前が覚えにくい国内物とはどういうことだよ! しかもアリバイ崩しとの相乗効果でしっちゃかめっちゃかだよ!
めげずに違うツボを探してみよう。おおっ、家系図が実は! うわあっ、待望の赤ん坊にはそんな条件が! って、宗教ネタは苦手なんだよ! イエスの生まれ変わりだと主張する輩は枚挙にいとまがないが、ここまで傲岸不遜な白樫家ってどうよ。
えーん、ツボが見つからなかったよお。別に木更津悠也に萌えないし。『夏と冬の奏鳴曲』は難易度が高そうなので、もっと自信(?)をつけてからにしよう…。
「芸術は爆発だ」という岡本太郎の言葉が、何となく思い浮かんだ。