麻耶雄嵩 08

まほろ市の殺人 秋

闇雲A子と憂鬱刑事

2006/01/16

 本作は、文庫書き下ろし競作「幻想都市の四季」の「秋」編である。麻耶雄嵩作品は2作目だが、最初が『神様ゲーム』で次がこれ、というのはどうなんだろう。

 ぶははははは。これはツボにはまった。中編に収めてしまうにはあまりにも贅沢極まりない内容。一方で、中編だから許されるネタだという気も…。誰にでもお薦めはしないが、広い心で読みましょうね。400円だよ。十分にお釣りがくる…はず。

 真幌市を震撼させる連続殺人事件。その犠牲者は既に11人に及んでいた。遺体のそばには常に何かが置かれ、左の耳だけが焼かれていた。その意図とは? 正体は? 真幌市在住の推理作家闇雲A子は、通称「真幌キラー」を追っていた。

 その闇雲A子と組まされる…というかお守り役を仰せつかった刑事天城憂だが、ひどい言われ様である。陰気だからメランコリー刑事、いや長すぎるからメランコ刑事ねって…。ちなみに、天城と普段組んでいる刑事の名は曾我鬱。人呼んで憂鬱コンビ。……。

 本作は、きっちりとした本格ミステリの顔と、ネタに走った一発芸の顔を持つ。本格としては真面目かつオーソドックスだろう。しかし、現代にあってこの肩書は「名探偵」以上に希少だ。ロジックの緻密さと対照的なネーミングセンスのなさ。

 そしてネタの顔。遺体のそばに置かれたものの法則性に仰け反る。無意味だ、あまりにも無意味だ。だがここは笑い流すべし。さらに、左耳を焼く意味に仰け反る。かつて、ここまで露骨な伏線が張られていたことがあったであろうか。

 罵詈雑言と絶賛を同時に浴びたというデビュー作『翼ある闇』と、理解不能さの余り非難の声さえも封じ込めたという『夏と冬の奏鳴曲』を、ますます読みたくなってきたぞお。ついでにマホロッシーの置物も欲しくなってきたぞお。



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