道尾秀介 01 | ||
背の眼 |
2006年には『本格ミステリ・ベスト10』に3作がランクイン。今最も勢いがあり、注目されている本格ミステリの俊英、道尾秀介。本作は第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞したデビュー作である。それなりに面白かったのだが…。
児童失踪事件が続く福島県白峠村で、作家の道尾は霊の声を聞いて逃げ帰り、友人の真備(まきび)を訪ねる。そこで見せられたのは、被写体の背中に人間の眼が写り込んだ4枚の写真。いずれも白峠村周辺で撮影され、全員が撮影後に自殺したという。
最初に書いてしまおう。これでもかというほど散りばめられた謎は、最後にはすべて説明される。ただし、合理的に説明される謎と、合理的に説明されない謎に分けられる。つまり、いわゆる霊現象の存在を認めなければ説明されない部分が多い。序盤から道尾は「霊の声」を聞くのである。それでいて、本格ミステリの体裁を持つ。
割り切れない謎が残る点について、道尾さんは、綾辻行人さんの『霧越邸殺人事件』のテイストを参考にしたとはっきり述べている。しかも、第5回ホラーサスペンス大賞に応募した動機は、選考委員に綾辻さんが加わったからだというから、何とも大胆である。
デビュー作としてはよく練られているし、理詰めの本格とホラーのバランスもよくとれているが、バランスがよすぎる点に引っかかりを覚える。メフィスト賞に応募しても落とされただろう。参考にしたという『霧越邸殺人事件』が醸し出す重厚さには到底及ばない。
いかにも京極堂を彷彿とさせる探偵役の真備。「霊現象探究所」を営む彼のスタンスは、京極堂とは対極にあるが、役回りは酷似している。解説には「エレガントな引用」などと書かれていたが、パクリと言われても仕方ない。これでは既存作品のいいとこどりでしかない。綾辻行人さんの選評を読んで、何て懐が深いんだろうと思ったのは僕だけか。
苦言ばかりで申し訳ないが、もう少しコンパクトにできなかったのか。これでも単行本化の際に削られたようだが、京極堂シリーズのように必要不可欠な長さとは思えない。突っ込みどころは多々あるが、デビューへの強い意欲だけは買ってあげたい。